2016-11-13

R・オースティン・フリーマン「オシリスの眼」


資産家でエジプト学者のベリンガムが奇妙な状況の元、行方不明となった。そして二年後、彼の財産をめぐる問題が立ち上がる。その生死が不明な上、遺言状の条項が常軌を逸したものであるためだ。そんな中、ばらばらにされた白骨が関係者たちの地所を含む各地で発見される。はたして、それはベリンガムの遺骸なのか。


ソーンダイク博士ものの長編、その二作目。1911年発表ということで、100年以上前の作品であります。
文章は平易なものであり、それ自体は古さを感じさせるものではありません。人間消失の謎に身元不明の白骨、法廷劇などもあってミステリとしてのフックは十分。しかし、展開は実にゆったりしたものであって、いいタイミングで新しい手掛かりが登場、なんて風にはいきません。
また、雰囲気を盛り上げるけれんも乏しいですね。題名になっている「オシリスの眼」というのはエジプトにまつわるシンボルで、今でも見かけることがあるもの。失踪したベリンガムはその意匠を施した指輪をはめており、胸にはタトゥーも入れていた、ということになっていまして、そこから怪奇的な因縁とか呪いやら、いくらでもこじつけられそうなものなんだけど。作者の誠実さがいい加減なことを書くのを許さなかった、ということかしら。
とにかく実直に書かれた作品なのですが、ロマンス要素が多すぎるかな。このせいでちょっと冗長になっているかも。時代的な限界なのでしょうか。

メイントリックは今となっては珍しいものではないけれど、非常に大胆な使い方がされており、発表当時に読んだひとたちはさぞや驚いただろう。
一方、ロジックの方はその構成こそ手堅いものの、現代の水準から見るとディテイルに欠けるところがあります。新聞記事から導かれた前提となる推理や、失踪状況の改めなどは大雑把に感じてしまいました。まあ、これをきっちりやると解決編がすごく長大になるのかも。
しかし、白骨はなぜ傷が付かないように注意を払って分断されたのか? というホワイには現代のミステリに通底するような魅力があって、これはとても好みです。
またプロット面でも、遺言状の条件をめぐる最終的ななりゆきが、皮肉が利いていて良いですね。

ちょっとケチをつけたりしましたが、楽しんで読めましたよ。
シャーロック・ホームズのライヴァルというより、ずっと近代的なミステリだと思いました。

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