2016-12-03

マージェリー・アリンガム「クリスマスの朝に」


アルバート・キャンピオンものの作品集、その第三弾です。
前のふたつが短編集であったのに対して、今回は200ページそこそこある長めの中編と短編がひとつ、おまけにアガサ・クリスティによる追悼文という構成で、全体の分量としても今までで一番少ない。このシリーズは三冊とも本文のフォントが大きくて、ページ数もそんなにありません。いっそ内容の濃い二分冊にしたら良かったんじゃ、とも思います。
それはともかく。


「今は亡き豚野郎の事件」は1937年発表というから比較的初期の中編で、本邦初訳とのこと。
少年時代の同窓生ピーターズの死亡を新聞で知ったキャンピオンは、その葬儀に参列をした。半年後になって、ある殺人事件の捜査に協力を求められたキャンピオンだが、死体安置所で目にしたのはあのピーターズの遺体であった。しかも被害者はまだ殺されてから間もない状態で……というお話。
不可解な謎による導入はいかにもミステリらしい魅力があって、わくわくさせられるもの。さらには死体の消失や犯罪を匂わせる匿名の手紙などの趣向によって、俄然興味が増していきます。ツイストを効かせたプロット、親しみやすく余裕を感じさせる語り口に、キャラクターも良く、最後までだれることなく読み進められます。
一方、純粋に謎解きの面から見るとアリバイ・トリックがいくらなんでもだし、二通目の手紙が投函されるタイミングにはやはり疑問が残ります。もっとも、こちらもアリンガムの持ち味はかっちりしたパズルにはない、ということは既に学んでいるので、そんなに不満でもない。錯綜しているように見えた事件をすっきりとしたかたちに収束させた手際はお見事なり。

「クリスマスの朝に」は「今は亡き豚野郎の事件」から十数年後、同じ土地を舞台にした短編。この二作品をペアにしたのが本書のミソですかね。
展開が見え見えの物語をいかに魅力的に語るか。ディテイルを書き過ぎない、というのもこのひとの美点でしょう。


ポスト黄金期として考えても大らかさがあるミステリですな。こういうのはがつがつしていた若い頃に読んでも楽しめなかったかも。

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