2017-08-17

コードウェイナー・スミス「三惑星の探求」


〈人類補完機構全短編〉、その三巻目にして完結編。前巻から一年以上かかりましたが、無事に出たので良かった。

最初の四作品はキャッシャー・オニールというキャラクターが登場する連作で、これらだけでペーパーバック化されていたもの。オニールは砂の惑星、ミッザーにおける元支配者の甥であったが、革命により追放の憂き目にあっていたという設定。
「宝石の惑星」 ミッザーの専制政権を打破するための物質的支援を求めるべく裕福な星、ポントッピダンを訪れたキャッシャー・オニールが、その地で起こっていた問題の解決を持ちかけられる。とても古典的なプロットだ。キャラクターからなにから典型的なスミス作品という感じ。
「嵐の惑星」 160ページ余りの中編で本書の中では一番ボリュームがある。すさまじい竜巻が吹き荒れる異世界が迫力を持って描かれる前半から、超常能力による戦い、そして人間性を復活させる物語へと展開。ひとつ、とても魅力的なアイディアがあるのだが、あえて膨らませることなく使われているのがもったいないような。濃厚なイメージが後を引く力作です。
「砂の惑星」 ミッザーへ戻ってきたキャッシャー・オニールは超人と化していた。やすやすと目的を果たしてしまったオニールは、次に聖なるものを求める旅を始める、というお話。宗教的な要素が強く、読んでいても正直あまりピンとこなかった。
「三人、約束の星へ」 この作品でのキャッシャー・オニールは脇役である。中心になる三人は宇宙船、各辺五十メートルの立方体、そして二百メートルある鋼鉄製の人間だ。彼らは遠い昔には普通の人間であり、今は人類に敵対する存在に対抗するために宇宙空間を飛び続けている。魅力的なキャラクターもさることながら、物語後半の急展開がなかなかに凄い。
これら四作品は作者が歳を重ねてから書かれたせいか、これより前の作品と比べると語りにおけるけれん味が控えめな感じを受けました。濃ゆい中身は紛れも無いコードウェイナー・スミスのものでありますが。

「太陽なき海に沈む」 コードウェイナー・スミスの奥さんであるジュヌヴィーヴが夫の死後に単独で書いた作品。読んでいてもあまり違和感がない、スミスの世界になっています。どこか中世の国を思わせるような惑星で繰り広げられる、醜悪な陰謀とそれを阻止しようとする物語だが、展開は少々あっけない。そして巨大猫のグリゼルダがかわいい。

あとは〈人類補完機構〉ものではない作品が六つ入っていて、すべて既読かな。
中では「西洋科学はすばらしい」の軽妙な語り、「達磨大師の横笛」「アンガーヘルム」の放り出すような結末が印象に残るものでした。

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