2017-09-12

レオ・ブルース「三人の名探偵のための事件」


「またしても密室殺人か」明らかにうんざりという様子だった「新機軸を期待したのだがねえ」

1936年に出版された、作者にとって探偵小説の分野におけるデビュー長編。
扱われているのはカントリーハウスにおける密室殺人です。はじめのうち物語はシリアスな雰囲気を保っているのだが、事件翌日になると呼ばれもしないのに名探偵と称される人物たち――勿体ぶった物腰の貴族、卵型の頭をした外国人、そして小柄な聖職者――が登場。更には、語り手も探偵小説内では当然であるような様式を意識するようになって、そこはかとないユーモアが醸され始めます。

物語の展開は尋問と捜査が続くむしろオーソドックスなもの。しかし、三人の名探偵たちのいかにも名探偵、という芝居がかったふるまいは、彼らのモデルとなっているであろう有名なキャラクターたちを想起させて実に楽しく、読み物として単調になることから救っています。

そして解決部分における推理合戦、ここが腰砕けだと単によくできたパロディ小説に収まってしまうところですが、それぞれの推理ががらりと違う上に密室トリックも複数、開陳されるのだから堪えられない。最後に明らかにされる真相はごくシンプルなもの、というのがまた洒落ている。

ジャンルの形式に意識的でありながら、あくまで娯楽性が優先されているのがいいじゃないですか。幕切れも気持ちよく、英国らしい楽しさが横溢した作品でありました。

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