2018-07-16

三津田信三「碆霊の如き祀るもの」


江戸時代から現代(作中では戦後)にかけて起こったとされる四つの怪異。それを取材すべく刀城言耶は断崖に囲まれた海辺の村へと向かった。しかし、というか、やはり事件が起こる。それは伝え聞く怪談の内容と呼応するようなものだった。


刀城言耶シリーズとしては六年ぶりの新作。
見立てによる連続殺人が起こり、それらがそれぞれに一種の密室であり、なおかつ有力な容疑者も挙げられないという、探偵小説としては王道のような設定であります。

語りのほうはすごくテンポがいい。ひとつひとつのエピソードが短めで、場面展開も早い。県警の警部が捜査の指揮を執るのだが、この人物が言耶の意見を聞きつつ現実的な見地からそれを検討していくというかたちをとっているので、読んでいてストレスがないし、物語途中での推理興味も十分。
一方でじっくりとした描写があまりないので、恐怖という点ではやや物足りないか。

事件のスケールが大きいためにあちらを立てればこちらが、となって中々、真犯人の目処が立てられず。そのまま終盤に至ると、70点にも及ぶ疑問が列挙されていく。

謎解きはスクラップ&ビルドを繰り返し、最終的に視点を変えることで全貌を見通すというもの。モダーン・ディテクティヴ・ストーリー的なロジックの意外性には堪えられないものがあるけれど、細部は先にいったん提示された仮説の中から再構成されていく分、読者の方が一足先に真相に辿り着いてしまうのは仕方がないか。
怪談の謎と現在の事件の絡ませ方といい、ミステリとしての洗練は相当なものになっているのだが、トリック一発の衝撃には欠ける。この辺りは好き嫌いはあるだろうな。

……と思っていたら結末で見事な着地が決まった。そして、あらためて作品の最初に置かれた「はじめに」の部分を見返すとなかなか読後感が深まってくるじゃないですか。
う~ん、わたしは満足です。
ところで、このカバー絵、帯を外してみてどきっとしたな。

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