2018-09-17

有栖川有栖「インド倶楽部の謎」


インド風の意匠が凝らされたその屋敷では、程度の差こそあれインドに関心を持つ人々による集いが定期的に開かれていた。あるときの会合に於いて、本場の先生を招いた「アガスティアの葉」のリーディングが行われる。「アガスティアの葉」には全ての人間の死ぬまでの運命のみならず、前世までもが記されているという。
数日後、その場に立ち会った人物が相次いで死体で発見される。


作家アリスものの新作。あいかわらずうまい。ファンタスティックな設定の自然な導入もそうだし、突っ込みをところどころで入れることで、逆に作品内でのリアリティを補強しているのだと思う。また、ICレコーダーやポチ袋といった小道具の使い方もいいなあ。
大きな謎のひとつは中盤あたりであっさりと明かされる。いったいに探偵小説を読んでいると捻ったようなロジックや、予想外のトリックに飛びついてしまいがちなのだが、それらを餌にしつつ最短距離を結ぶシンプルな解を提示されると、虚を突かれたようになってたまらない。

フーダニットとしては難しいバランスの上に成り立っているという感じ。関係者は揃ってアリバイがないので、動機探しが大きくなっているのだ。
共同幻想に取り込まれたゆえの事件、というのはとても現代的であると思います。そして、その種を蒔いたのが被害者自身である、という構図も実に良く出来ている。ただし、この部分が謎解きのメインを占めていながら、犯人確定の手掛かりはまた別のところにある、その辺りを物足りなく思う人はいるかもしれんね。

特異な前提を解体していきながら、最後まで割り切れない部分が事件の核であった、というのがミステリとして美しいと思います。個人的には満足して読めました。
シリーズの愛読者としては野上巡査部長の単独行パートも興味深かった。普段、ぶっきらぼうな野上が何を考えているのか、火村や有栖川の存在をどう捉えているのかとか。

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