2019-05-19

エラリー・クイーン「Xの悲劇」


新訳クイーン、前回に予告されていたのは『シャム双子の謎』だったのに。また『X』か、と思ったのだが角川の越前訳が出てから既に十年経っているのね。

もはや読むのが何度目くらいかわからなくなっているのだが、面白かった。これよこれ、という感じ。こちらの読み方が歳を追うにつれて変化している分、新しい発見もあった。
注目していたのは探偵エラリーでは描けなかった、奇抜な個性を持つヒーローとしてのふるまい。それにしてもドルリー・レーンの王様っぷりよ。現実世界でも大舞台で主役を張ってみたい、という。本人は否定しているものの、事件を演出するために話を引っ張っている、犯人も被害者もレーンによって泳がされている、そういう感が残る。特にダイイングメッセージはレーンがいなければ無かったはずの謎であり、そのことについては少し満足気にも見える。これに味をしめて、後のシリーズ作では更に事件への介入を強めていくというのは満更うがち過ぎでもないだろう。

物語には勿論、古臭い要素はある。しかし、ミステリとしての構造、姿勢の美しさはちょっとやそっとじゃ揺るがない。こういうきちっ、としたパズルストーリーをもっと読みたいのよ。
たとえば第一の殺人、ある物証で一気に容疑者が絞られてしまう流れなど、実に格好いい。この時点で既に明らかだったのだ、レーンははったりをかましていたわけではないのだよ、というね。

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