アンリ・バンコランものとしては最後の長編。
1937年の作品であって、
『蝋人形館の殺人』からは5年しか経っていないのだが、バンコランがえらく老け込んだ、というか別のキャラクターのようである。また、作品の雰囲気もおどろおどろしさがないものであって、シリーズらしさはあまり感じない。
殺人現場には何故か四つの凶器(となるような物品)があったが、使われたのはそのうちのひとつだけであった。バンコランによればその状況は目くらましによるものではないという。そうするとミステリとしての売りはホワットダニットになりそうなものですが、そういう構成ではない。かといってフーダニットと考えると動機の検討がされないのが不自然なほど。どうも中心となる謎がはっきりしない。
それでも物語の早い段階で、バンコランには犯人はわかっていると言うので、期待して読み進めたのだが。
複数の人物の思惑が絡み合った真相はあまりに複雑すぎるし、煙幕が本当に煙幕でしかなかったりして、絵解きをされてもあまりすっきりはしない。辻褄が合っていようが、これらを全て推理できるはずがない、と思う。
お話としてはキャラクター書き分けがいいし、クライマックスへと至る流れはとても迫力があり、意外性の演出もきれいに嵌っているのだが。
盛り込まれたアイディアには面白いものも多いのだけれど、この時期のカー作品としては落ちる、というのが正直なところ。
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