2012-04-01

ジョン・ディクスン・カー「蝋人形館の殺人」


アンリ・バンコランものの新訳。

セーヌ川に浮かんだ令嬢の他殺死体。事件の捜査に乗り出したバンコランは、最後に被害者が入るのを目撃されながら、そのまま消えてしまったという蠟人形館に赴いた。だが、そこで発見されたのは、展示されているサテュロス像に抱かれている別の女性の死体であった・・・。

カーの作品のなかでもごく初期に属するものでありますが、割合にすっきりとした仕上がり。おどろおどろしい演出が上手くはまっている上に、邪魔になっておらず、いい塩梅で。

最初に提示される人間消失の謎はすぐに解けてしまいます。そうすると興味は犯人探しになるわけなのだけれど、事件の構図や容疑者が二転、三転。バンコラン自身もなかなか目星が立てられない。
ただ、シビアに見れば捜査は穴だらけなのですが、そこを言うと作品自体が成り立たないところがあるかな。

意外な真相は説明されてみると、蠟人形館という舞台が必然であったことがわかります。少し観念的ではあるけれど、この趣向は素晴らしい。
また、細かな手掛かりや、そこから導き出されるロジックが冴えています。伏線も大胆で、好み。

まあ、謎そのものはカーにしてはやや軽いけれど、オーソドックスなフーダニットとしてよく出来ており、推理の妙が充分に楽しめる作品でありました。

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