2020-06-20

平石貴樹「潮首岬に郭公の鳴く」


函館の資産家の美人姉妹が芭蕉の俳句に見立てたような状況で殺害されていく、というお話。一見した道具立ては横溝正史です。
視点人物となる舟見警部補は『松谷警部と向島の血』にも捜査協力者として名前とその手による書簡が出てきていた人物であって、作品内世界が地続きなことを示しています。

展開は非常に派手なものの、平石貴樹の書き振りは(良くも悪くも)変わりがない。品がよいというか、羞恥心があるというか。わたしはその抑制を好ましく思うのだが、そうでないひともいるでしょうね。ふぅ。ジャンクフードばかり喰い過ぎなんだよ。

登場人物はとても多いです。で、それに伴うように謎も多くなっていき、読んでいる途中で、いくらなんでも枝葉がすぎるんじゃないの、これは無駄な部分なのでは、という気がしてきました。それが解決編に至ると、全てに解答が用意されていて、あれほどややこしく感じたものが、意外なくらいすっきりとした全体像を結ぶのだから気持ちいい。
また、明らかにされる動機の強さに圧倒されるが、それは同時に手の込んだ犯罪計画に説得力を与えるものだ。そして、その動機を示した伏線の美しさよ。

事件のもつスケールの大きさとすっきりとした文体のミスマッチはあるでしょう。しかし、ここまで巧緻であれば、そうした瑕疵などどうでもいい。この作者らしく、かたちの綺麗なパズラーでした。

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