2020-11-09

ジョン・ディクスン・カー「死者はよみがえる」


1937年のギディオン・フェル博士もの、その新訳。連続殺人を扱った長編です。

導入から事件までの流れがすっきりしているし、犯罪をめぐる状況も(奇妙な要素はあるものの)明確に示される。細かいアリバイが絡んでくるが、それは偶然の目撃者によるものであり、あまりごちゃごちゃしてこない。

物語の早い段階で事件が出揃って、その後は尋問・調査が続く。怪奇や不可能趣味によるけれんは、この作品では排されており、カーにしてはストレートなフーダニットという感じです。
中盤過ぎ、一通り手掛かりが集まってからのディスカッションが楽しい。意外な容疑者の指摘と微妙に焦点をずらしたような推理。さらにはそれまで俎上には上がってこなかった要素に関する、ある可能性の指摘。
もっとも、ここでのフェル博士は、いつも以上に意見がはっきりとしない。この出し惜しみが後からすごく効いてくるのだけれどね。

いよいよ捕り物となってからの展開は意表を突いてきて、ぐっと引き込まれるのだけれど、これフェアすれすれじゃないかなあ。
そして最終的に明らかにされる真相は、非常に意外なものであります。しかし、その分、使われている手は相当にあこぎ。大して検討されずにいた、いわば推理の前提となっていた部分の穴を突いてくるのだ。さらに言うと、犯行計画にもかなり無理がある。
もっとも、容疑者を絞り込む際の構図の逆転は印象的ではあるし、いくつもあった疑問点がこうでしかない、という形で解決されていく快感はやはりなかなかのもの。作品タイトルも肩透かしではない意味が持たされている。

かなり無茶なのだが、まあ、すごく面白かったのな。

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