2014-12-30
エラリイ・クイーン「災厄の町〔新訳版〕」
クイーン氏はまた深く息をついた。「だが、そんなことはだれにもわかるまい? これは実に奇妙な事件だったよ――人間関係も感情も出来事もひどくこみ入っていて、ぼくが出くわしたことのないものばかりだった」
さて、新訳版です。
えらく厚くなったような。字が大きいわけでもないのに500ページくらいある。
帯には「エラリイ・クイーンの最高傑作!」とあります。そうなのでしょう、きっと。
この『災厄の町』は今まで何度か読み返してきました。クイーンにとって大きなターニング・ポイントとなる作品であり、実際に面白いのですが、最初に読んだときには、ミステリとしては大したことないんじゃないか、と思いました。
エラリーを渦中に取り込むことで、事件を外側から見ることができなくさせてしまう、それによってこの作品は成立しているのだけれど。読者からすれば真相は簡単に見当が付く。そして、さすがにこのままでは終わらないだろう、と思って最後まで読み続けると、なんと、本当にそのまま終わってしまう。
ある程度の複雑さを犠牲にしたことで、小説としての力強さが生まれているのだとは思いますが。若いひとが「よし、犯人を当ててやろう」と意気込んで読んだとしたら、がっかりするんじゃないかな。
全体の構成はとても優れているのです。犯人の設定は過去に使ったものの再使用なものの、物語の上ではずっと大きな効果を挙げている。また、投函されていない手紙、というアイディアの独創性は見事というしかない。
一方で、クリスティ風のダブルミーニングも使われていますが、これはちょっと硬いかな。
既にエラリー・クイーンのファンになっている人間にとっては、とても読み応えのある作品ではあります。
なお、早川からは夏に『九尾の猫』の新訳が出るそうです。先に『十日間の不思議』を読んどいたほうがいいんだけどな。
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