2024-04-21
横溝正史「悪魔が来りて笛を吹く」
1951~53年に雑誌連載され、‘54年に単行本化された長編。作中の出来事は昭和22(1947)年になっています。これは同年、実際に起こった帝銀事件を、すぐにそれとわかる形で作品に取り込んでいるのがひとつの理由です。また、交通事情がまだあまり整理されていない状況もプロットに利用されているのかも。
主な舞台は東京、扱われているのは作者得意の一族内で起こる事件で、アクの強いキャラクターが多数いる中、密室殺人が発生。その手段はともかく、関係者の誰にもしっかりとしたアリバイは存在しない。そして、捜査の過程で浮上するのは既に亡くなっているはずの人物であった、と。
これまでの横溝作品でも何度か顔の無い死体を使ったプロットがありましたが、今作では死体の身元確認もしっかりとされた人間が、実はまだ生きているのではないか、という興味が強調されます。
そして、題名にもなっている「悪魔」とは何なのか。
警察や耕助に対して明らかに隠し事をしている家族たちもあって、捜査は難航。だが、故人の遺書にまつわる状況のツイストで、事件の様相がみるみる変わっていく。また、それをきっかけとして東京から神戸、淡路島へと話の規模が広がっていくのも巧いところ。退廃的な人間関係が明らかになっていき、複雑さも増していくばかり。
フーダニットとしては複数の殺人事件について、いずれ確固とした証拠は存在せず、推理は緩いと感じます。ですが一見、手の付けようの無さそうな全体図が、ある意思に沿って読み解くことで綺麗に再構築されていく様は見事。誤導にもう少し工夫があればよかったかも。
また密室の謎も、トリックそのものは置いても、それを補強する小技や(なぜか解説はされないものの)伏線が効いていて、案外悪いものではないと思います。
事件の構図のダイナミックな変化と、ストーリイテリングが冴えた一編かと。
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