2025-01-09

有栖川有栖「砂男」


6作品が収録された短編集。文庫オリジナルの企画ですが、入っているのが単行本未収録作品ばかりとあっては見逃せない。選定のしばりから、書かれた時代がばらばらなだけでなく、江上次郎ものと火村英生ものの両シリーズが共存するという事態が発生しています。まあ、一編ずつ読むには関係はないのですが。

まず、はじめは江上二郎率いる英都大学推理小説研究会ものがふたつ。
「女か猫か」 密室内での怪事件であり、扉には封印まで施されている。謎解きのほうは軽めの印象を受けるかもしれませんが、設定を生かして困難の分割をさらりとやってのけています。また、人名の遊びなども余裕が感じられて愉しい。
「推理研VSパズル研」 日常の謎ですらない、パズル研から出された問題に推理研のメンバーたちが頭を捻る前半。この部分だけでも短編として成立はしそうなのだが、本領発揮はそこから。推理小説の謎とクイズやパズルとの違いに言及しながら、正解のない問いと格闘する遊び心に満ちた一編。

続いてノンシリーズものがひとつ。
「ミステリ作家とその弟子」 タイトル通り、ベテランのミステリ作家とその内弟子の物語。現代の風俗を反映しながらも、仕上がりは昭和のミステリっぽい。昔話や童話をミステリ作家ならどう見るか、という「推理研VSパズル研」と似た趣向の部分も面白い。

火村英生&作家アリスものがふたつ。それぞれ2004年と1997年に発表されながら、理由あって単行本には採られてこなかった作品です。今回、注釈入りでならとのことで無事、読めるようになりました。
「海より深い川」 相当にトリッキーだが、性急な書きぶりでもある。全く掴み所の無さそうな事件について、火村はアリスの部屋で説明をしているうちに解決に思い至る。
「砂男」 長編化を考えていただけあって、この作品のみ中編ほどのボリュームがある。都市伝説をとてもうまく取り込んだミステリであります。

最後はあっさりとしたテイストのもの。
「小さな謎、解きます」 商店街の中にある探偵事務所を舞台に、ちょっとした謎解きがなされる小品の連作。軽みと、薄っすらとファンタスティックな感触があるのがいいですな。

0 件のコメント:

コメントを投稿