2025-01-25

ジャニス・ハレット「アルパートンの天使たち」


英国では2023年に出されたジャニス・ハレットの第三長編。文庫で750ページ弱と、デビュー作であった『ポピーのためにできること』より、ちょっとだけ厚い。ページの余白が多いので、実際の分量としては見かけほどでもないのですが。
今作も地の文がなく、メッセージ・アプリのログにメール文、インタビューの文字起こしや新聞記事などから構成されている。『ポピー~』にはそういったテキストに対して外枠になるやりとりがあったし、正解が用意されていることも保証されていました。しかし、今作はどういう種類の物語になるのかわからないので、やや不安ではある。

時は2021年、犯罪ドキュメンタリー作家であるアマンダという女性が、18年前に起こったカルト宗教絡みのむごたらしい事件についての本を書くことになる。その取材として、過去の関係者たちにインタビューを行うのだが、それぞれの事実認識のずれが積み重なっていく上、取材そのものを抑止するような動きがあるようで、次第に不穏な空気が高まっていく。

主人公がはっきりとした形で立てられており、本筋として事件後に行方知れずになった人物を捜索する、というのがあるので、実は『ポピー~』と比べると読みやすいです。
またテキストの集積といえど、隠し録りデータの文字起こしの部分からは動きが感じられ、説明がないことが却って迫力を生むことになっているかと。

なかなか全体像が見えてこず、お話がどこへ向かうのか、謎のうちどれだけがちゃんと説明を付けられるのか、と思いながら読んでいましたが、全体の三分の二くらいまできて、さまざまなパーツがひとつの絵に嵌りはじめる。
そして終盤には怒涛の真相解明が。この物語に無駄な部分などひとつとして無かったのだ。ここへ来て、堂々たるミステリとしての姿が立ち上がってくる。
さらに我が国の新本格を思わせる幕切れ、いやはや。

『ポピー~』には冗長な感もあったのですが、今作では地の文がない、という形式が仕掛けにしっかり結びついていて、ミステリとしての密度がかなり高い。力作ですな。

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