田口俊樹による新訳。もう何度も訳され、そのたびに読んできた作品なので、虚心に筋を追って読むことが出来なくなっている。
今回、気になったのはエフィ・ペリン、探偵事務所の秘書だ。このペリンがサム・スペードと会話している部分は小説の他のところと温度が違う。というかスペードの態度が違うのだ。大雑把にいうと普通のアメリカの探偵小説っぽい。
苛烈な犯罪小説に、軽快なペリンとのパートが差しはさまれることで緩急が付いているのだけれど、それはハメット以前のミステリとの落差を意識させるものでもある。そう考えると、物語の結末においてペリンがスペードを拒絶するのは象徴的ではあるか。
作品自体については今更、言うことがない。
13年前の小鷹信光訳が出たときにも書いてしまっているしね。あえて付け加えるなら、サム・スペードはできうる限り、己の職業に忠実でいながら、自分自身であろうともしている。その困難がプロットのねじれ、もっといえば、わかりにくさを生んでいるのだと思う。
今回の翻訳は小鷹版と比べると、荒々しさがやや抑制されて表現されているような印象を受けました。
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