2012-09-23
ダシール・ハメット「マルタの鷹〔改訳決定版〕」
これも創元・早川両方の版で何度も読んだ古典だ。以前に早川から出ていたのも小鷹信光による翻訳だったのだが、改訳ということで。
どこか悪党めいたところのある探偵二人と、身なりが良く若い女性の依頼人。駆け落ちした妹探し、といういかにも私立探偵小説らしい発端は、程なく血腥く欲望にまみれた展開へとなだれ込んでいく。
「あんた方にも警察にも、いうべきことは何もない。市から給料をもらっている町中のいかれた連中に、あれこれ非難されるのも飽き飽きした。今後おれに会いたければ、逮捕するか召喚状を持ってこい。そうしたら弁護士を連れて会いに来てやる」
サム・スペードが地方検事に言い放つ科白だ。随分と勇ましい。お偉方に対してこんなにも強く出られる私立探偵が実際にいるだろうか。
あるいは結末近くでの大演説。自分の心の揺れを何から何まで説明してしまう。まるでメロドラマだ。
だが、ハメットのようなオリジナルなものに、ジャンル小説としてどうこう、というのは無意味なことかもしれない。
実をいうと作者自身による序文において、スペードはこうありたいと願った理想像である、ということがはっきりと書かれているのだ。
殺された相棒に対して、サム・スペードが実のところどう感じていたのかは読者にはなかなか窺い知れない。今更こんなことを書くのもなんだが、そうした「行動によって語らせる」そのままに、心理描写を排除した文体によって醸される緊張感とリズムが心地良い。
ハードボイルド云々、はいったん頭から退けて、まずはその格好良さにやられて欲しい。
真に力強いミステリだ。
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