2025-07-05

カーター・ディクスン「爬虫類館の殺人」


1944年のヘンリ・メルヴェール卿もの長編、その新訳です。
この作品は旧訳でも読んでいるのだけれど、有名な密室トリックはシンプルかつ独特なこともあって、もはや忘れようがない。
そういう状態で読み始めましたが、冒頭からカーの典型的なロマンスが始まって、ややうんざり。

扉や窓の隙間が内側から目張りされた密室でのガス中毒死、だがこれは殺人だという。謎が強力な故に仮説も立てられず、推理の面白さがなかなか盛り上がってこないのは痛し痒しであるか。
もっとも、トリックがわかっている状態で読むと、前代未聞のミスディレクションはもちろん、伏線がしっかりしていることに感心します。結構、きわどい書きっぷりをしているのが愉しい。
また、密室の謎だけでなく、続いて起こる事件などもあって、読ませる展開になっています。フーダニットとしての疑惑を掻き立てる加減もよく、これがあるからこそ最後が生きてくる。

クライマックスではそこに至るまでのドタバタからは一転、ヘンリ卿と犯人の直接対決がシリアス仕様でしびれるところ。決定的な証拠はないように見えるが、他殺であることを証明したうえで、手堅いロジックも交えながら追い込んでいきます。こちらも相当に大胆に手掛かりを転がしていたのだな。

トリックを知った状態で読んでもミステリとしての作りが行き届いていて、まずまず楽しめました。

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