2025-07-23
宝樹「三体X 観想之宙」
劉慈欣の「三体」シリーズ三部作、その二次創作であります。
物語はシリーズ完結編である『三体III 死神永生』の裏面、という感じで始まり、主人公は『死神~』の登場人物であった雲天明(ユン・ティエンミン)。『死神~』の終盤では、意図的に人間ドラマの部分を断ち切っていて、そうしてより大きなスケールのヴィジョンを提示しえた、と思うのです。それがこの作品では一旦、個の問題に戻ります。大きな役割を与えられながら、語られることはなかった雲天明の辿った運命が明らかにされるのですが、その過程に本家『三体』では説明がされなかった部分の謎解きがふんだんに盛り込まれていて、これがとても楽しいのです。
そして、三部構成の二部にはいったところで、物語はがらりと変わります。そこからが「三体」シリーズからさらに次へと踏み出した、この作品のオリジナルな部分であり、宇宙規模のホラ話が繰り広げられます。
非常に密度高くアイディアが盛り込まれ、面白く読んだのだけれど、さすがに本家のような圧倒的な迫力はないです。
作品の多くの部分が対話によって展開されているので、動きに乏しい。また、説明で手一杯になって、描写が物足りないので、あまりイメージが広がっていかないのですよ。ゆえに説得力も弱くなっていると。
あと、これは言っても詮無いかもしれませんが、馴染みあるキャラクターたちへの違和感は否めません。
「三体」シリーズを読んでいないと、何のことやら、という箇所も多いですし(特に終盤)、あえてふざけてみたところもあって。凄くよくできてはいますが、あくまで二次創作、ファン向けでありますね。
2025-07-05
カーター・ディクスン「爬虫類館の殺人」
1944年のヘンリ・メルヴェール卿もの長編、その新訳です。
この作品は旧訳でも読んでいるのだけれど、有名な密室トリックはシンプルかつ独特なこともあって、もはや忘れようがない。
そういう状態で読み始めましたが、冒頭からカーの典型的なロマンスが始まって、ややうんざり。
扉や窓の隙間が内側から目張りされた密室でのガス中毒死、だがこれは殺人だという。謎が強力な故に仮説も立てられず、推理の面白さがなかなか盛り上がってこないのは痛し痒しであるか。
もっとも、トリックがわかっている状態で読むと、前代未聞のミスディレクションはもちろん、伏線がしっかりしていることに感心します。結構、きわどい書きっぷりをしているのが愉しい。
また、密室の謎だけでなく、続いて起こる事件などもあって、読ませる展開になっています。フーダニットとしての疑惑を掻き立てる加減もよく、これがあるからこそ最後が生きてくる。
クライマックスではそこに至るまでのドタバタからは一転、ヘンリ卿と犯人の直接対決がシリアス仕様でしびれるところ。決定的な証拠はないように見えるが、他殺であることを証明したうえで、手堅いロジックも交えながら追い込んでいきます。こちらも相当に大胆に手掛かりを転がしていたのだな。
トリックを知った状態で読んでもミステリとしての作りが行き届いていて、まずまず楽しめました。
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