相変わらずの寡作ぶりですが、三年くらい前から出版予告されていた長編もいよいよ今年の9月には出そうなので、凄く期待してはいます。
さて、『貴族探偵』であるけれども、この作家の例によってキャラ立ちが激しい。
今までも、推理せずとも最初から真相などお見通しなメルカトル鮎シリーズ、ワトソン役がいち早く解決にたどり着き、名探偵にさりげなくヒントを与える『名探偵 木更津悠也』があったわけだが。
『貴族探偵』は題名通り、やんごとなき身分のお方が探偵である。が、推理などという雑務を本物の貴族がすることはなく、そういった普通探偵役に期待される仕事は彼の使用人である、運転手・執事・メイドなどが行うこととなる。貴族探偵は使用人に事件を解決するように指示しておくと、自身はもっぱら優雅に紅茶などをたしなみながらソファにくつろぎ、女性を口説いたりしているのだ。
このように設定が派手目である分、ミステリとしてはオーソドックスな線を踏んだものとなっています。事件そのものはケレン味に欠けるように映るかもしれませんが、どの短編も滅茶苦茶にトリッキー。読者に、ああ、成程そういうパターンねと思わせて、さらにそれを逆手に取ったテクニックなど、本当に凄い。
また、解決のロジックもどんどん転がっていくうちに、とんでもないところに辿り着くようで、実にスリリング。
ガチガチの謎解きミステリとして、オリジナリティがある上にレベルが高いです。故・鮎哲先生の域に達しているんじゃないでしょうか。
ちょっと色物っぽいので敬遠するひともいるかも知れませんが、純粋にミステリとして素晴らしい一冊でありました。