2011-11-08

Bill Withers / Live At Carnegie Hall


1973年リリース。
アコースティックギターを抱えた黒人シンガーソングライター。そんなイメージを持っていたとしても、一曲目の "Use Me" を聴いただけで、これはただ事ではないライヴ盤だとわかる。ジェイムズ・ギャドスンのドラムがビシビシ決まる、強力なスロウファンク。
ベースはギャドスンと同じくワッツ103rdストリート・リズム・バンドのメンバーでもあるメルヴィン・ダンラップ、パーカッションはマーヴィン・ゲイの「What's Going On」「Let's Get It On」などにも参加しているボビー・ホール。
スタジオ録音よりもゆとりあるテンポで、腰の据わったグルーヴが展開されていく。

ドニー・ハザウェイの「Live」やカーティス・メイフィールドの「Curtis/Live!」と同じく、こちらのライヴも基本はスモールコンボで演奏されてはいるのだけれど、曲によっては後から管弦などがオーバーダブされていて、それが適度な彩りになっている。
また、場所がカーネギーホールとあって、先に挙げた二作と比べるとハコが広く感じられる分、臨場感では譲ります。ただ、代表曲 "Lean On Me" での反応は凄いし、ライヴ終盤における客席を巻き込んだ暖かい盛り上がりは気持ち良い。

ビル・ウィザーズというシンガーは、スタジオ録音だと淡々とした印象がありますが、このライヴではなかなかに熱い。大して声量があるわけではないし、音域だって狭いのだけれど説得力のある歌声を聞かせてくれます。また、バラード系の曲では逆にさらっと歌い、演奏時間も長く引っ張らないところはセンスの良さを感じるところ。
MCが結構雄弁なのはフォークのひとっぽいなあ、という感じです。ただ、話し声と歌声の印象に落差が余り無い、ということにも気づかされて。すみずみまでパーソナリティが感じられる歌、それこそがこのひとの魅力だろうか。

2011-11-05

ジャック・カーリイ「デス・コレクターズ」


安モーテルの部屋で発見された全裸死体には異様な装飾が施されていた。そして、その殺人には30年前に死んだ大量殺人犯の残した絵画が絡んでいるようなのだ。特殊犯罪を扱う部署に属するカーソン・ライダー刑事と相棒のハリーは事件の背景を洗い出すべく、殺人鬼にまつわる品を収集するコレクターの世界の調査に乗り出す。その一方で、謎の人物がTVレポーターに事件の情報をリークし始めた。

デビュー作『百番目の男』でキャラクターの紹介が済んでいるせいか、今作では事件の捜査に直接関係ないようなエピソードはあまりなく、かなりすっきりした仕上がり。
また、前作では主人公の痛さが気になってしようがなかったのだけれど、そこらへんも改善されて安心して読める。相変わらず文学青年のような気取りが入っている場面もあるのですが、あまり嫌味にならず、いい味付けになっています。

プロット自体は現代的な意匠を取り除けば、結構古典的なものじゃないかと思う。複数の被害者たちに犯人から奇妙なメッセージが、というのはシャーロック・ホームズ譚にも見られるくらいで。
捜査結果に推測をつなぎ合わせる事で、枝葉に見えた事柄がひとつひとつ本筋に繋がっていく過程が読ませますが、それでも肝心の動機や犯人については五里霧中といった感じが終盤まで続きます。犯人像が浮かばないためか、奇怪な事件を扱ってはいるもののサイコサスペンス的な雰囲気はあまりありません。

大まかな流れから外れていた細かい違和感が綺麗に回収されていく真相は、かなり予想外な盲点を突いたもの。犯人設定などはロス・マクドナルドみたいだ。形良く纏まり、オーソドックスなミステリとしては一作目と比べ、ずっと上手くなってはいると思う。

推理の過程を読ませるような作品ではないけれど、本格ミステリとも共通する趣向を全く違った論理の文法と見せ方で実現している、といった印象です。
物語としても意外な反転が美しく、うまい一本。

2011-11-04

Todd Rundgren / Runt. The Ballad of Todd Rundgren


トッド・ラングレンのセカンドアルバム、1971年作。このひとの作品の中では最もコンテンポラリーな仕上がりかも。
バラッド・オブ、というタイトルが示すように落ち着いた曲調のものが多く並んでいるのだけれど、突出した部分がないように思い、昔はそれほど気に入っていなかった。ところが、歳を取ってからは凄くいい感じで聴こえるようになってきたのだな。
ファーストと比較するとドラマーが交代したことが大きく、より細かいニュアンスを表現できているように思う。一方でラフな勢いが削られたことが内省的な印象に繋がったか。

一聴するとシンガーソングライターっぽい印象も受けるのだけれど、実は本当に色んな音が鳴っています。また、コーラスアレンジも相当しつこく、ボーコーダーを通すとか変な試みもあって、やはりこのアルバムもトッドならではのものと言えるのでは。

特に好きなのが、一曲目の "Long Flowing Robe"。メロディはキャロル・キング風かな。洒落たクラヴィネット、重ねてハーモナイズしたリードギター。パターンを変えていくコーラスはビートルズみたいだ。いろんなスタイルの丁寧なパッチワーク。

あと、"Chain Letter" はエンジニアを務めていたベアズヴィルのアーティストたちからの影響なのだろうか、ざっくりしたアコースティックギターだけを伴い「あんまり自分のことをシリアスに考えすぎないほうがいいよ」と唄いはじめられる。しかし徐々に演奏のスケールが大きくなり最後はドラマティックに盛り上げるのは、後の作品を予感させるようでもある。

その他、ソウル趣味がストレートな形で出た "Hope I'm Around" など、後年の作品と比べると生なサウンドゆえか、アイディアが判り易く伝わってきて。
そんな手作りっぽさのようなものが、このアルバムの楽しさかしら。

2011-10-29

Brian Wilson / In The Key Of Disney


ブライアン・ウィルソンのニューアルバムは前作「Brian Wilson Reimagines Gershwin」に引き続きカバー集であります。今回はディズニー映画の挿入曲がテーマということで、取り上げられているのも1937年の「白雪姫」から昨年公開された「トイ・ストーリー3」までと実に幅広い。作曲クレジットを見るとエルトン・ジョンとランディ・ニューマンがそれぞれ2曲づつあって、ブライアンがこういった同時代のアーティストの曲をカバーするというのもなんだか不思議。

内容的には、「SMiLE」セルフカバー以降のアレンジのボキャブラリーの拡がりをはっきり意識させられるものもあれば、定番の60年代風スタイルであったり。またはドライなアメリカンロック的な瞬間もあれば、はてはボ・ディドリー!?というものまで。 色々やってはいるけれど、最終的にはどんな曲でもブライアン・ウィルソン印だな、という感じで。題材の消化が半端ないですな。
前作のガーシュイン集には紛れも無いポップスでありながらブライアン流ルーツ・ミュージック探訪のような趣もあったように思うのだけれど、今回は比較的テーマの縛りが緩いものであるせいか、気楽に楽しめるものに仕上がっています。
サウンドについてはコーラスのエコーが深すぎるんじゃないか、とかドラムの音どうなの、なんて思わなくも無いのですが。

カバー集が続いたり、もうライヴはやめるようなアナウンス、あるいはビーチ・ボーイズ版「SMiLE」の正規リリースと、なんだかブライアンはキャリアのまとめに入っているような気もする。
ファンとして本当は新曲で固められたアルバム、というのが一番聴きたいところであるけれど。

2011-10-27

Phil Spector presents The Philles Album Collection


来たぞコラ。フィレスのアルバム6タイトルを再現した箱だ。4ヶ月ほど遅れたが、当初アナウンスに無かったシングルB面曲を収録したコンピレーションが一枚増えているから納得しましょう。ライナーノーツはその界隈では知られたミック・パトリックが書いています。


まず言っておくとこれは熱心なファン向けのリリースであって、間違ってもこれでスペクター入門しようとかは思わないでね。
アルバム間の曲のダブリがあって。特にクリスタルズはエライことになっていますよ。
さらには、シングルB面曲のコンピなんだけど。確かに殆どの曲は初デジタル化であるが、フィレスのB面なんて聴いてそう面白いものではないのね、インストのジャムセッションばっかだし。そもそもスペクターにとってシングルA面こそが大事なのであって、下手にB面にいい曲を入れてそちらをラジオでかけられることは避けたかったのだな。
あと、細かい事をいうとクリスタルズのファースト「Twist Uptown」(1962年)頃はまだニューヨーク制作であり、独特のサウンドの完成には至っておらず、ファン以外の人にとっては普通の古臭いオールディーズじゃん、と思えるかも。後にLAにおいて実現されるヴィジョンの萌芽を見て取るという楽しみはあるのだけれど。
ヒット曲の類はおおかた2月に出た4種のベスト盤に入っているし、特に曲数が多いわけでもない今回のリリースは、オリジナルに準じた仕様ということに意義を見出せない人にはキツイかもしれない。
それでもボブ・B・ソックス&ブルー・ジーンズがまとめて聴けるなんて素晴らしいではないか(と言って同意できないひとはやめといた方がいいかな)。

なお、音の方はすっきりクリアで聴き易いのだが、それってウォール・オブ・サウンドとしてどうなの、という気はしないではない。アブコの「Back To Mono」ボックスに馴染んでしまったからかもしれないけれど。


そんなことはともかく。
ロネッツ唯一のアルバム「Presenting The Fabulous Ronettes Featuring Veronica」は1964年リリース。フィル・スペクターのピークを記録した一枚でしょう。シングルの寄せ集めのようなところがあるので、内容は当然のように良いです。ビートルズ上陸以前のアメリカン・ポップ、その集大成では、なんて口走ってしまいそうになる、とんでもない充実ぶり。
いやいや本当に楽しいよ。

2011-10-22

Van Dyke Parks / Arrangements Volume 1


ヴァン・ダイク・パークスが過去にアレンジを手がけたワーナー音源より自ら選曲したコンピレーションが出ました。
パッケージは見開き仕様の紙ジャケット。本人によるライナーノーツは若い頃のざっとした回想録のようなものなのですが、ボブ・トンプソンのような存在ですらあまり儲かっていないとかそういう話も。


なんといっても、ヴァン・ダイク自身の初期のシングル曲が5曲収められているのが魅力で。"Donovan's Colours" はジョージ・ワシントン・ブラウン名義でリリースされたモノシングルミックス、"Farther Along" は恐らく初CD化では(アナログ盤起しのようですが)。"Come To The Sunshine" "The Eagle And Me" "Out On The Rolling Sea When Jesus Speak To Me"は既にCD化されていますが、こうやって一箇所に纏められたのが嬉しい。
さまざまな楽器がそれぞれに主張しているようでありながら、全体としてはしっかりとひとつのイメージを結んでいるこれらの曲は、改めて聴いても強烈。
またムーグシンセを使った短いインスト "Ice Capades" というのもあって、これはスケートショー宣伝用ジングルのよう。まあ、レアなんでしょう。

その他、収録されているアーティストはボー・ブラメルズのサル・ヴァレンティノ、アーロ・ガスリー、ボニー・レイット、モージョー・メン、ライ・クーダー、リトル・フィートにローウェル・ジョージのソロなどですが、それらは殆ど他でも聴けるものかな。珍しいものとしてはディノ・デシ&ビリーのディノ・マーティンが歌うジミー・クリフのカバー "Sitting Here In Limbo" というものも。
量的にはちょっと物足りない気がしますが、ヴォリューム2も出るのかしら。

こういうアレンジャーの仕事を纏めたものというのは珍しいのではないか。ぱっと思いつくのは英Aceによるジャック・ニーチェくらいで。チャーリー・カレロなんかもあっていいんじゃないか、と思います。

2011-10-20

ジャック・カーリイ「百番目の男」


ひとのすなるカーリイなるもの、われもせんとて(てきとう)。まずはデビュー作をば。
公園で発見された首無し死体。それは死後、故意に目立つ場所に移動させられていた。さらに下腹部には犯人によって書かれたとおぼしいメッセージが。

主人公はわずか二年で巡査から刑事に昇進した、キャリア三年のカーソン・ライダー。若く才能があって、まあまあいい暮らしをしているようで、ちょっと生意気でもある。相棒はベテランの黒人刑事ハリー。本書は異常犯罪担当の特別部署に属する二人が連続殺人事件を追う物語だ。
基本、ライダーによる一人称であるが気取った軽口や比喩が多く、ときおり鼻に付くほど。例えば被害者の係累を描写するこんなくだり。
「ビリー・メッサーは若い時分にはエキゾチック・ダンサーだったが、エキゾチックは垂れ下がってしまい、いまではかつて男たちをたきつけて買わせた飲み物を作って生計を立てていた」

ミステリとしてはサイコキラーものと、警察小説の要素を両方取り込んでいるんだけれど、それぞれに既視感があるというか定石通りのものを並べたような印象は否めない。
ライダーは組織上部からの妨害を受けながらも事件の捜査を進めつつ、合間に女を口説き、さらには自らも暗い過去や秘密を隠して、となんだか盛りだくさん。あっちもこっちも膨らみを持たそうとしていて、ちょっと読みにくい。
本筋にエンジンがかかりだすのは物語の半ばを過ぎて、新たな手がかりを掘り起こしてからである。暗い心の伝播による地獄めぐりが一気に流れ始める。

真相開示シーンでは大真面目な論理が別な次元に横滑りしていく瞬間が素晴らしい。新たな次元から光を当てる事で思っても見ない情景を立ち上らせる趣向は、優れたセンスを感じさせるものだ。また、同時にそれまでは観念的に見えていた狂気に下世話なリアリティが獲得されるのも良い(とはいえこれは狙って出来る芸当でもないような)。
一方でミスリードは上手くないし、クライマックスが冗長になるなどバランス悪く、全体としてはあまり良い出来とは言えないのだが。
才人の若書きなのか。二作目『デス・コレクターズ』を読むまではとりあえず保留ということで。