2011-10-20
ジャック・カーリイ「百番目の男」
ひとのすなるカーリイなるもの、われもせんとて(てきとう)。まずはデビュー作をば。
公園で発見された首無し死体。それは死後、故意に目立つ場所に移動させられていた。さらに下腹部には犯人によって書かれたとおぼしいメッセージが。
主人公はわずか二年で巡査から刑事に昇進した、キャリア三年のカーソン・ライダー。若く才能があって、まあまあいい暮らしをしているようで、ちょっと生意気でもある。相棒はベテランの黒人刑事ハリー。本書は異常犯罪担当の特別部署に属する二人が連続殺人事件を追う物語だ。
基本、ライダーによる一人称であるが気取った軽口や比喩が多く、ときおり鼻に付くほど。例えば被害者の係累を描写するこんなくだり。
「ビリー・メッサーは若い時分にはエキゾチック・ダンサーだったが、エキゾチックは垂れ下がってしまい、いまではかつて男たちをたきつけて買わせた飲み物を作って生計を立てていた」
ミステリとしてはサイコキラーものと、警察小説の要素を両方取り込んでいるんだけれど、それぞれに既視感があるというか定石通りのものを並べたような印象は否めない。
ライダーは組織上部からの妨害を受けながらも事件の捜査を進めつつ、合間に女を口説き、さらには自らも暗い過去や秘密を隠して、となんだか盛りだくさん。あっちもこっちも膨らみを持たそうとしていて、ちょっと読みにくい。
本筋にエンジンがかかりだすのは物語の半ばを過ぎて、新たな手がかりを掘り起こしてからである。暗い心の伝播による地獄めぐりが一気に流れ始める。
真相開示シーンでは大真面目な論理が別な次元に横滑りしていく瞬間が素晴らしい。新たな次元から光を当てる事で思っても見ない情景を立ち上らせる趣向は、優れたセンスを感じさせるものだ。また、同時にそれまでは観念的に見えていた狂気に下世話なリアリティが獲得されるのも良い(とはいえこれは狙って出来る芸当でもないような)。
一方でミスリードは上手くないし、クライマックスが冗長になるなどバランス悪く、全体としてはあまり良い出来とは言えないのだが。
才人の若書きなのか。二作目『デス・コレクターズ』を読むまではとりあえず保留ということで。
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