ロジャー・ニコルズのデモ、CM、TV音楽などが2CDに69曲とぱんぱんに入った日本企画盤。元になる音源は400トラックにも及んだそうですが、コーディネイターである濱田高志氏は「最初で最後のデモ&CM集」と書いています。
歌っているのはロジャー本人だったり、セッションシンガーであったりとさまざま。
ディスク1は商業的な楽曲のデモ集。
曲は年代順に並んでいて、最初の10曲が1967、68年のもの。スモール・サークル・オブ・フレンズによるものが3曲あって、これらにはやはり特別なマジックがあるように感じてしまう。また、ロジャーがマレイ・マクレオド、スモーキー・ロバーズというパレード組と一緒に歌っているものがひとつあって、これもよろしいですなあ。これら4曲だけでも元を取った気になった。
また、ハーブ・アルパートのために書かれたというインストが4曲あるのだけど、これらは本当にデモなのだろうか。まださほど売れていないソングライターのデモ程度に管楽器を3本も入れたりしていたら金がかかって仕方がないと思うんだが。曲によっては相当にうまいドラムが入っていて、これらはスタジオ・リハーサルか何かが本当のところでは。
続いてはポール・ウィリアムズが歌うものが8曲。内容は昔、オフィシャルでも出ていたデモンストレーション用アルバム「We've Only Just Begun: Composed By Roger Nichols & Paul Williams」に近い。
このひとのボーカルは、じめっとしているようで昔はあまり好きではなかったのだけれど、今ではそうでもない。むしろ、ニコルズ=ウィリアムズによる曲については誰よりも丁寧に歌っているようで、一番しっくりくる。
残りは1972~83年のものが12曲。いろんなシンガーのうちでもマレイ・マクレオドの声の相性が抜群ですね。また、ジェリー・ゴーフィンとの共作曲があったのにちょっと驚いてしまった。
ところで、これらのうち'70年代以降のいくつかの曲は最近になってからミックスやオーバーダブがなされているのではないかな。エコーや音の感触が違いすぎるもの。特に18~20曲目は安い感じがしてちょっと興醒めです。
出版社によるデモンストレーション・レコード 「We've Only Just Begun」 |
ディスク2の前半はCM曲集。30秒ほどの短いものもあれば2分くらいあって独立した曲として成立しているものも。インスト曲もありますが、どれも一瞬耳を捉えるメロディが光ります。また、大手の会社の仕事が多く、そういうところは流石にしっかりしたプロダクションのものになっていますな。
こちらの一曲目は "We've Only Just Begun" の元となった、銀行のCMソング。これや、あるいは前述のデモ・アルバムでの "We've Only Just Begun" はやや跳ね気味のミディアム・テンポで処理されていて、個人的にはカーペンターズや後にポール・ウィリアムズが自身のソロ・アルバムで取り上げたヴァージョンより好みです。
後半はTV番組のために書かれた曲と近年になって制作されたものでまとめられています。こちらにもジェリー・ゴーフィンとの曲がひとつありますね。
しかし、時代が現代になるにつれて落ち着いた曲ばかりになってしまうのは仕方がないのかな。やや単調に感じてしまうのだが。
このディスクの終わり近くに収録されている "Look Around" は、再結成スモール・サークル・オブ・フレンズのアルバムに入っていた曲。プロダクションが簡素であることで、かえってメロディの良さが伝わりやすくなっていると思います。いや、いい曲ですな。
統一感はありませんし、特にディスク2はポップソングもあればそうでないものもという風で、完全にファン向けの企画盤ですが、アタマからケツまでこのひとならではのメロディが詰まった2枚組ではあります。