エルキュール・ポアロものの1935年発表長編。
パリからロンドンへ向かう旅客機内で、まもなく目的地に着こうかというときに老婦人の死体が発見される。その死因は南米の吹き矢による毒殺らしいのだが、どうやら誰にもそれを使う機会は無かったようなのだ。
これまでの作品で、列車を閉鎖空間として扱ったものはあったが、今度は旅客機でやったというところかな。もっとも、こちらは乗客たちの相互監視の目がずっと強く、そのことがミステリとしての難度を決定しています。
ジャンル小説としての純度は非常に高く、人物紹介を手際よく済ませるとすぐに事件が起こってしまう。60ページにはすでに検視審問がはじまるのだから進行が早い。その後はずっと、ポアロとジャップ、そしてフランスの警部の三人が頭を突き合わせながらの捜査が続くのだが、わざとらしくないユーモアの加減もあって、退屈せずに読んでいける。このあたり、ワンパターンなのだろうが、読者にストレスをかけない流れはもう名人芸といっていい。
不可能犯罪としての興味もありますが、その辺の検討は置いてけぼりで、いつものポアロものと同じく人間性にまつわるあれこれでお話は進んでいきます。
最後に明かされる真相はごくシンプル。当たり前過ぎるがゆえの盲点を突いたスマートなもの、と言いたいところなのだが、冷静に考えると相当無理がある。もっと大きな無理筋のものをミスリードにしているので、見逃してしまいそうになるが。
着想は良く、抜群の技術の冴えも見せながらも、詰めが甘い。そんな感じですかね。
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