2012-12-09

デュレンマット「失脚/巫女の死」


スイスの劇作家、フリードリヒ・デュレンマットの中短編集。採られている作品はいずれもエンターテイメントとして読めるものばかりであります。300ページちょっとで千円越え、と文庫本にしてはちと値が張るのだけれど。

「トンネル」はオーソドックスな不条理ものですが、まあ、でぶのドタバタ劇です。心理に深く踏み込まず、淡々とした描写によって生み出されるそこはかとないユーモアもいい。軽々しく「ここではないどこか」とか言ってるやつらは皆、この列車に乗ればいいのだ。

「失脚」で描かれているのは独裁政治のグロテスクなカリカチュア。革命をめぐる奇妙な論理が展開するうちに、状況が一転していく。恐怖に支配された喜劇でもあって、笑いながら読みました。

「故障」はミステリの世界でもありそうな設定のものであるけれど、展開が読めるよな、と思っているとあれあれ・・・。チェスタトン的でもあるか。

最後の「巫女の死」は有名なギリシア悲劇を素材にして好き放題遊び倒した一編。死に瀕した巫女の前に「オイディプス王」の登場人物たちの幻が次々にあらわれ、真相は実はこうだったのだ、とそれぞれに違う告白をしていく。繰り返しギャグでもあるし、ミステリのパロディとしても読めるか。

少し理屈っぽいですが、初期の筒井康隆みたいなところもあって気に入りました。結末において物語世界の底が抜けるような感じで、寓意を探ろうとすればいくらでも掘れそうではありますが、まずはただただ面白く読むが吉かと。

0 件のコメント:

コメントを投稿