2013-11-11

天藤真「殺しへの招待」


「わたしは、あなたがよくご存知の、ある男の妻です。ただし、わたし自身は、あなたにお目にかかったことはありません。
きょうからひと月以内に、その男の死亡通知が、あなたの手もとに届きます。ありきたりの文面で、彼は急病で死んだことになるはずです。
でも彼は病死ではなく、実は殺されたのです。どうしてそう予言できるかというと、殺すのが、このわたしだからです」

5人の夫たちのもとに彼らのうちの誰かが妻の手で殺される、という同じ内容の手紙が届く。狙われているのは自分ではないかという不安を抱えつつ、彼らは手紙で指定された場所に集合。だが、顔を出した男たちは、お互いに見ず知らずであることがわかった。疑心暗鬼になりながらも、対策に知恵を寄せ合う夫たち。
さらに第二、第三と手紙が続けて届き、そうした夫たちの動きも監視されていることが告げられる。次第に追い詰められた男の中には自分自身を見直し、改心するようなものも。
それでも最後の手紙が届き、遂に殺人は起こった。

序盤は脅迫サスペンスっぽく、事件が起こった中盤以降はスリルを持続しつつ、フーダニットとしての様相を見せ始めるのだが。
とにかく手が込んだプロットであって、読み進めていくと、最初に思い込んでいたのとはまるで違う物語なのではないか、という思いがどんどん強まっていく。また同時に、どうしようもない野郎たちと思えていた旦那衆が、なんとも頼もしくも良い奴らに見えてくるのがいい。

40年ほど前の作品であるがミステリとして非常にはモダンなアイディアが盛り込まれており、そしてそれが人間の善悪の部分の両方を鮮やかに映し出す。性善説あるいは性悪説、どちらが本当ということもないのだ。
結末の好みは分かれるかもしれないが、徹頭徹尾ミステリであるとはこういうことなのだろう、きっと。

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