2013-11-04
アガサ・クリスティー「NかMか」
時は第二次大戦中、英国にもぐりこんだナチス・ドイツからのスパイを突き止めるべく、海辺の保養地にあるゲストハウス〈無憂荘〉へと乗り込んだトミーとタペンス。だが、そこに住むのは特に変わったところのない、戦争から避難してきた人々ばかりであった。本当にここがスパイ活動の拠点なんだろうか、という疑いを抱きはじめたふたりであったが・・・。
トミー&タペンスものの第二長編で、1941年刊行のスリラー編。
ふたりが活躍するものとしては『秘密機関』(1922年)、短編集『おしどり探偵』(1929年)から結構経ってからの作品であり、作品内でもそれだけの時間が反映されています。若いカップルだったトミーとタペンスも、ここでは40代の中年夫婦になっているのですが、相変わらず冒険を求める心は失っていないのが嬉しいところ。
最初のうちは関係者の裏の顔を探るという展開であって、あまりスリラーっぽくない。この時期の謎解きものと同じく、じっくりと物語は進んでいく。退役軍人や老嬢などの、いかにもなキャラクターを描くクリスティの筆は冴えまくっていて、だからこそ、その典型からはみ出るところがちらり、と見えるとすごく疑念が掻き立てられる。
後半に入ったあたりで、お馴染みの展開なんだけど(ほんとにワンパターンだよね)トミーとタペンスは危機に陥るのだが、それ以降は俄然スリラーらしくなってくる。スパイの正体を部分的に明かしつつ、それでもまだ底を見せずに読者をぐいぐいと引っ張っていく。
そして、終盤に至ってこの作品が単なるお気楽冒険ものではなく、細部に至るまでしっかりと構築されたミステリであることが判明するのだ。
時代によってスリラーものでもかなり、作風に違いがありますね。明るさや躍動感を残しつつ、ミステリとしての結構も整った充実作ではないでしょうか。
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