2014-09-14

マーガレット・ミラー「悪意の糸」


マーガレット・ミラーなんて読むのは何年ぶりだろう。1950年の作品だそう。

ミラーというと語り手が自分自身に嘘をつき続けるようなミステリの印象が強いのだけれど、この作品はずっと平明。陰鬱さもあまり感じず、心理の書き込みも抑え目で、全体の雰囲気やプロットは凄く私立探偵小説っぽい。

主人公は女医であるシャーロット。彼女は若い女性からの中絶手術の依頼を断るのだが、後になってその患者のことが気になり、住所を訪ねて行く。家の持ち主である患者の叔父はみるからにうさんくさい男であり、かつ何かを隠しているようであった。言付けを残して帰宅したシャーロットは、ガレージで何者かに殴られ、気を失ってしまう。

シャーロットが仕事の範囲以上にその患者のことを気にかけるのは、その境遇に不倫をしている自らを重ね合わせてしまったからなのだが、そのことによって自らも脅威にさらされる羽目になってしまう。ここら辺りからは巻き込まれサスペンスとしての要素も加わる。
途中で事件性のある出来事が起こってからは刑事が登場。こいつがやたらにクールな野郎であって、台詞のほうもワイズクラックふう。そうすると、シャーロットはヒロインっぽく見えてくる。

真相のほうは可能性が限定され過ぎているため、割りと見当が付き易くなっている。しかし、その開示シーンの迫力・説得力は流石にミラー。また、意外なくらいに伏線の綾もよくできている。
何より、旦那のロス・マクドナルドがまだ駆け出しといっていい時分に、ミラーがこれをものしたというのが驚き。

というわけで、僕の持つマーガレット・ミラーのイメージとは少し違いましたが、コンパクトでありながら内容は濃く、非常に形よくまとまったミステリでありました。

2 件のコメント:

  1. こんにちは。
    マーガレット・ミラー、今年は没後20年、来年は生誕100年ということで、
    リバイバルを期待したいところです。
    「悪意の糸」面白かったです。
    ミラーにしてはシンプルでストレートでした。
    さらなる未訳作品の発掘、絶版本の再発に期待です。

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    1. コメントありがとうございます。
      この「悪意の糸」がある程度評判になって、他の作品にも光が当ることに期待したいですね。「悪意の糸」はいい作品だと思いますが、これでマーガレット・ミラーに初めて接するような若い読者には「ミラーはこの程度じゃないんだけどな」と言っておきたい気持ちもあります。

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