「もうつぎの人殺しがあってもいいころね?」
「つぎの殺人ってなんだい?」
「探偵小説では、もう二番目の人殺しがいつもあるころですもの。真相を知っている人が、それを喋らないうちにやられちゃうのよ」
1949年発表のノンシリーズ長編。
資産家の老人が急死した。常用しているインシュリン注射、その薬瓶の中身が入れ替えられていたのだ。老人には年の離れた後妻がいて、老人の家族から疑いの目で見られている――というお話。
タイトルはマザーグースの歌詞からきており、事件の舞台となる邸宅も指しているのですが、ねじれた家に住むねじれた人々、というほどには異常な人間は出てこない。
ユーモア味が薄いわりにサスペンスも控えめで、うっすらとした不安が全体を支配しているようである。
この作品、クリスティ自身のお気に入りのひとつであるそうで、実際に凄くよくできたミステリなのだが。
困ったことに、年季の入った読み手だとある先行作との類似に思い当たって、推理するより前に犯人の見当が付いてしまう。そうするとむしろ、このテーマがいかに料理されているか、というのが見所になるのだけれど。クリスティはさらにひとつ、別の趣向を重ねることで、真相を徹底して見えにくいものにしているようだ。
また、周辺を固める小道具の使い方が冴えてますな。遺言状をめぐる謎などは、それだけを取り出すと大したことはないのだけれど、プロットに絶妙な捻りを与えていると思います。
非常に手の込んだ作品ですが、本質はアイディア一点勝負。ゆえにあまり予備知識を持たずに読むのが吉かしら。
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