2015-02-15

アガサ・クリスティー「魔術の殺人」


「あなたは、どのくらいまでわかっていて、ジェーン?」
ミス・マープルは、鋭くキャリイの顔を見あげた。
二人の婦人の眼と眼があった。
ミス・マープルは、ゆっくりいった。
「かりに、わたしの考えがたしかだとしたら・・・・・・」

マープルは女学生時代の知り合いであるキャリイが危機にさらされているのでは、という曖昧な相談を受けて、目的を隠しキャリイの屋敷に滞在することとなる。
くだんのキャリイという女性は三度も結婚しており、そのたくさんの家族たちと共に暮らしていた。ただ、誰からも彼女は憎まれてはいないようだ。マープルは何かはっきりとしない違和感を覚えるのだが。


1954年発表の、ジェーン・マープルもの長編。
メインとなる事件で使われているトリックは実に単純というか、ひねりのないもの。純粋に犯人を推理しながら読んでいけばわかるかも。
一方で、マープルが真相に気づく契機となったと述懐する、あることがひっくり返った趣向は秀逸です。

誤導には結構あこぎなものがある。銃声に関する証言や心臓がどうこういう会話など、結局は何でもないものとして片付けてしまっているけれど、特に前者は二つの方向をもつ誤導であって。単純に捜査の方向を誤らせるという意図とは別に、その証言をしたものを読者に疑わせるという効果が見られる。
そういう小さな積み重ねがあるため、マープルをひっかけるために行なわれた犯人の偽装工作には、クリスティ作品に慣れ親しんできた読者ほど裏を読んで「まさかあのパターンか」と思わされるのではないか。

ただ、あれこれ工夫は見られるもののミステリとして芯になる部分が、せいぜいが短編を支える程度の小粒さであることを救うところまではいっていないと思う。また、前半は結構締まった仕上がりですが、後半に起こる事件の扱いがいかにも乱暴であって、いかにもプロット上の要請から置かれたという感じがします。
雰囲気は良いし楽しくは読めたのだけど。

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