「ごみ捨て禁止」と書かれたパネルが貼ってあったが、その斜面にはどこも同じような、割れた瓶、メロンの皮、空罐、錆びたバネ、黒ずんだぼろ切れ、手足の千切れたセルロイドのベビー人形などが積み上げられていた。
1981年発表。引退を決意した殺し屋が、その身を狙われるという、設定だけ取れば陳腐きわまりない物語だが。
その文体は内面描写を排した、いわゆるハードボイルド小説のスタイル。滑らかでも美しくもない、乾ききってぶっきらぼうなものだ。それでいてキャラクターたちの無様で不器用な人間臭さが印象的。
テリエは凄腕の殺し屋なのだが、本職以外のことには抜けたところがある。人間的に未成熟なところが残っているようなのだ。更には、もとより口数の少ない男なのに、ある出来事をきっかけに失語症になってしまう。ハードボイルド本来の行動をもって語る、を徹底したかたちといえるのか。
人がばたばたと殺されながらスピーディーに話は進んでいき、ときに視点や場面の転換が改行もなしで行われる。その一方、ひとつひとつの情景には魅力があって、映画的ですらある。こんなにクソのような現実を映しているのに。
そして、ステレオタイプなノワール、そのパロディのようであった物語は、結末に近づいていくにつれ奇妙に捩れていく。あたかも最後まで安易な感情移入を拒否するかのように。
口当たりは甘くないし、暇つぶしの娯楽には向かないが。寒々として虚しい運命を描ききって他には無い、強い余韻を残す作品だった。
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