飯城勇三氏監修のエラリー・クイーン外典コレクション、『チェスプレイヤーの密室』に続く第二弾です。代作者はリチャード・デミングで、デミングはクイーンのペーパーバック・オリジナル29作品のうち10作を手掛けているらしい。
帯の文章にはこうあります。
高層ビルの執務室でなかなか面白そうに思える。
男が死体となって見つかり
直後、ニューヨークを大停電が襲う――
現場にたどり着いた隻眼の探偵は
さまざまな証言の中から
犯人を追い詰めていく
なお、「隻眼の探偵」といっても麻耶雄嵩作品の御陵みかげみたいなのではない。本作に登場するのはティム・コリガンというニューヨーク市警の警部で、体格のいい中年男。片目には眼帯をしている。このコリガンは6作品で登場するそうで、『摩天楼のクローズドサークル』はその最後の作品ということだ。
大停電のさなか、自殺の通報を受けたコリガン(と相棒のチャック・ベア)はなんとか現場に辿り着く。そして調査の結果、自殺は偽装であったことが判明。しかし、停電の影響で鑑識さえも来ることができない。コリガンは当座のうちは殺人の事実を隠したまま、ロウソクやランタンの光の下で関係者たちの証言を集める。
設定は目を引くものの、経過は実に地味です。誰に動機と機会があったかを洗い出していくのだが、有力な手掛かりも浮かんで来ず、ミステリらしいフックがあまり感じられない。
作品全体の3分の2くらいまで来たところでようやく事件は新たな進展を見せ、更には夜が明けると停電も解消される。ここから通常らしい警察の捜査が始まります。正直、もう少し展開は早くならないものか、とは思いましたね。
謎解きのほうはフェアで、かつ停電が有機的に絡んでいるという点でユニークなもの、なんだけれど小粒な感じも否めない。せいぜいが短~中編を支えるくらいのアイディアではないかと。誤導にはなかなか巧いものがあるのですが。
丁寧に構成されていて悪くない作品だけれど、ハードカバーで買って読むとしたらやっぱりマニア向けですね。
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