1982年、ディックの死後まもなくに発表された長編。
タイトルであるティモシー・アーチャーはカリフォルニアの主教という設定で、この作品の開始時点では既に故人となっている。語りはティモシーの息子(彼も亡くなっている)の妻、エンジェル・アーチャーによる回想を中心としたもの。女性が主人公というのはディックにしては珍しい。
内容を乱暴に要約すると、エンジェルのまわりにいる頭のいかれた人々がその運命に囚われ、死んでいく物語だ。だから、雰囲気はペシミスティックなものにならざるを得ない。
小説として動きが少ない分、ナラティヴは非常に饒舌。一方で
『ヴァリス』や
『聖なる侵入』と違うのは、エンジェル自身は宗教的なものを少し距離をおいて見ているところであり、その分わかりやすくはある。
エンジェルの周囲の人々が死んでいったあと、終盤に差し掛かったところで、作品の冒頭の時点に戻ってくる。ここからちょっとした展開があります。ある意味で『ヴァリス』とリンクするような。ただし、本作はSFではない。故に、現実に起こってしまったことを覆す手立てはもはや存在しない。
正直、娯楽性には乏しい作品だ。けれど、ディックは自身が抱えていた問題に対処するのに、ここでは安易な救済に逃げなかった。明確な意思を感じさせる結末が生む、じわじわとした感動はそのためだ。
『ヴァリス』や『聖なる侵入』を自ら批判し、それを乗り越えた。キャリア末期の作品群ではこれが一番かもしれないな。
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