2015-12-20

アガサ・クリスティー「鳩のなかの猫」


新学期になって全寮制の女学校、メドウバンクに新しい生徒や新任の教師たちがやってくる。一方、それに先立って中東のある国でクーデターが起こり、このときに非常な価値をもつ宝石が消失してしまう。そして、その行方に関する手掛かりがメドウバンク校にあるようなのだ。かくして、ある組織の男が身分を秘して送り込まれるのだが、やがて殺人事件が。


1959年、良家の娘を対象にした女学校を舞台にした長編。一応、エルキュール・ポアロも出てきます。
『鳩のなかの猫』というタイトルは英国の言い回しらしく、鳩の群れの中に猫を放り込む、すなわち騒動を起こす、と。メドウバンクの生徒や教師たちが鳩であり、そのなかに猫が潜んでいるということだ。
国際的な問題を背景にしたスリラーとして展開する今作、女史のこの系統の作品の例に漏れずディテイルはゆるゆる。しかし、人物は印象的だし、ユーモアの配分も上々であって、快調に読み進めていけます。

物語全体の七割くらいまで来たところで、ようやくポアロが登場。自信に満ちたキャラクターであるポアロは頼もしいのだが、一方でその存在によってここまで魅力的に描かれていたある人物の影がとたんに薄くなってしまうという面もあります。
また、ミステリとしては意外性をはらんだつくりであるけれど、伏線らしいものがなさすぎる。実はこうでしたよ、と言われてもあまり感心できないなあ。
正直、ポアロは出さないほうが良かったのでは。

スリラー要素と謎解きがうまく嵌らなかったという印象を受けました。それでも雰囲気の良さ、お話作りのうまさでクリスティのファンならそこそこ楽しめるとは思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿