2015-12-31

クリフォード・シマック「中継ステーション」


アメリカの片田舎で周囲とは没交渉で暮らす、元軍人のイーノック・ウォレス。彼は百二十年以上生きているはずなのに三十歳にしか見えなかった。まぎれもない地球人だが、銀河中に存在する星々を結んだルート上の中継ステーション、その地球における管理人でもあったのだ。


1964年に発表された作品で、さまざまなアイディアが盛り込まれているのだけれど、今の感覚からするとSFよりはファンタジーといったほうがいいか。
高次の文明・文化を持つ異性人たちと交流を重ねることで、地球に属しながらそれを外側から見ているような感覚を持つように至ったイーノック。特殊な立場ではあるが、自身もそのあり方に充足しているようであった。だが、CIAが不老の男の存在を嗅ぎ付けた事が、やがてステーション存続の危機を呼び込んでいく。そして、イーノックはそれまで育んできた異性人たちとの関係を取るか、地球を取るかの選択を迫られることになる。

裏のないキャラクター(聾唖の少女、ルーシーなど善そのものといった感じ)、臆面もないロマンティシズムには乗り切れないところがないではない。寓意が見えてしまうのもやや興醒めだ。けれど、一方でそれらが作品にいきいきとした力強さを与えているのも確かであるよね。

事件はさらには銀河系全体を巻き込む危機にまで発展していくのだが、その舞台が一貫してウィスコンシン州の僻地から出ることがない、というのが凄い。そしてさまざまな出来事を経ながらも、物語はイーノック自身の心のありかた、アイデンティティの問題とともにある。ここら辺り、時代が一周回って現代的かも。

壮大なスケールを有しながら手触りは暖かく、しみじみとした叙情を残す作品であります。いい本だ。
ところで、シマックでは『都市』というのが有名ですけど、あの作品には後から一章が付け加えられたという話で。個人的にはあれ以上の終わり方は無いとは思うのだけれど、完全版として新訳が出されることがあれば読んでみたいですね。

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