2016-08-07

青崎有吾「水族館の殺人」


ええと、三年前に出た作品の文庫化ですね。
水族館内で刺された男が血を流しながら水槽内に落ちていき、鮫にかぶりつかれるという発端はかなりえぐい。しかし、その後には事件は起こらず、ミステリとしてはひとつの殺人の謎だけを追って展開していくという、堂々たるフーダニットであります。

前作『体育館の殺人』では思いつきに従って捜査したらそれを裏付ける証拠が出てきました、という感じのところが見受けられたのだけれど、今回はその辺りの手順が改良されていますね。
ひとつのささいな証拠から意外なほどに多くの事実を引き出していく手法、特に犯人が予想していなかった事態に対応せねばならなかった、という推理がいかにもエラリー・クイーン直系と感じで嬉しくなります。また、今作では大詰めにおける消去法のスリルもまたクイーンっぽい。

少し気になったのは、事件現場には明らかに妙なところがあるのだけれど、そのことは何故か指摘されないまま物語が進んでいくのですね。で、結末に至ってその疑問は氷解するのですが、事件の奥行きを生み出すために美しさが犠牲になっている、という感じを個人的には受けました。こういうところも包含した、スケールの大きな解決編を読みたかった、と言ったら欲張りすぎでしょうか。

『体育館~』と比較すると、キャラクター付けがしつこくなくて読みやすくなっているのもよかったです。ところで、本筋に関係なさそうなエピソードが本当に関係なかったので、ちょっと驚いた。これは今後のシリーズに生きてくるのでしょうか。

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