2016-08-16

ハーラン・エリスン「死の鳥」


九作が収録された短編集。伊藤典夫訳、とあるけれど「編」はついてないので、伊藤氏で既に翻訳が存在したものを集めたのでしょうか。

作品は発表年代順に並んでいます。はじめの方はいかにもニューウェーブSF、という感じですね。先鋭的であったはずの趣向ほど古びてしまっているのは仕方のないところ。また、プロットだけを取ればそれほど意外なものはなくて、むしろ落ち着くべきところに落ち着く、といったものが多い。
しかし、それらを如何に語るかというスタイルが格好良いのだ、凄く。気取りすら感じられる比喩表現や、断片的でありながら熱量を感じさせる饒舌には読んでいるこちらも煽られっぱなしだ。

特にいいと思ったのは表題作である「死の鳥」。何がなんだかよくわからなくても、とにかく読み進めずにはいられない。一見ミスティフィケーションのような額縁部分が、実は注釈として理解の助けになっている、というのもスマート。
また、現実と内宇宙を合わせ鏡にした「ランゲルハンス島沖を漂流中」はちょっとディレイニーを思わせる、メタファーだらけの才気走った一編でこれも凄い。
そして、およそ救いというものが無い「おれには口がない、それでもおれは叫ぶ」や、ジャック・ザ・リッパーを扱った狂おしいノワール「世界の縁にたつ都市をさまよう者」に込められた異様なエネルギーたるや。

その他、SFらしいガジェットに頼らない分、今日性を獲得しているようなものもあって。良い塩梅に手垢が付いたアイディアと、ほとばしるような描写のバランスによって「プリティ・マギー・マネーアイズ」「鞭打たれた犬たちのうめき」などはモダン・ホラー・ストーリーとして読むこともできそうだ。
あと、ミステリ読みとしては「ジェフティは五つ」の結末に頭を捻った。ぼかされているのかと思ったが、よく読めば最後から2ページ目、7~9行目にはっきり書かれているのね。プロバビリティーの犯罪、というやつ。

バラエティには富んでいるけれど、どれもこの作家ならではの仕上がりになっているものばかり。やたらに密度の高い短編集です。

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