姪の心遣いによってロンドンの歴史ある高級ホテルに滞在することになったミス・マープル。ホテルはまるでエドワード朝を思わせる落ち着いた雰囲気があり、サービスも申し分なく、マープルはそこでの生活に満足していた。だが、その一方で大規模な犯罪機関がこのホテルと何か関わりがあるのではないか、と警察が調査に乗り出し始める。
1965年発表のジェーン・マープルもの長編。
あからさまに疑わしい行動をする人物は出てくるものの、事件らしいことはなかなか起きません。列車強盗やらある人物の失踪など、いくつかの筋が平行して語られていき、どういう種類の物語なのかが見えないまま物語は進んでいきます。
全体としてみると、謎解き要素の薄いスリラーというところ。マープルは出てくるけれど大して推理をするわけではなく重要な証人といった役止まりであって、この作品での主役は警察官ということになります。また、真相は意外なものでありますが、組織的な犯罪を目くらましにした、それとはまったく関係のない個人的な事件というのは以前の作品でも使っていた構図です。
クリスティが年をとってからの作品の例に漏れず、プロットはゆるゆる。しかし、舞台やキャラクターの書き込みがしっかりしていて、それが真相が判明したときの説得力に結びついています。古き良き英国を賛美しているように見せて、実は時代の変化に向き合った作品であります。幕切れもこれまでのクリスティにはなかった種類のものですね。
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