2017-04-04

アガサ・クリスティー「運命の裏木戸」


田舎に引っ越してきたべレズフォード夫妻は、家の前の持ち主からまとめて買い取った本の数々を整理していた。そのうち一冊のなかに犯罪を告発する暗号が隠されているのを発見。しかし、その関係者たちは半世紀以上も前に亡くなっていた。はじめは単なる好奇心から調査を始めた二人は、やがてかつてのスパイ活動に突き当たる。


クリスティが最後に執筆した長編で、トミー&タペンスもの。「フランクフルトの件」に関わったロビンソン、パイクアウェイ氏らも登場。
トミーとタペンスは『NかMか』の事件を解決したことによって諜報部関係者の間では名をあげており、その『NかMか』の内容にも結構触れられています。

女史のキャリア末期における作品がみなそうであるように、これも遠い昔に起きた事件をほじくり返すというお話。タペンスが「過去の罪は長い影を曳く」というフレーズを口にするのですが、これは『象は忘れない』にも出てきたし、『カリブ海の秘密』にも似たようなのがあった。
そして、やはりこの時期の他の作品と同じ欠点も共有している。展開が冗長で、同じことが繰り返し語られる。中心人物の行動範囲は極めて限られており、その調査が進んでも事実関係は曖昧にしか語られない。口述筆記の弊害なのかな。

これ以前のトミーとタペンスものはスリラー小説といっていいものだった。怪しい人物を尾行。犯罪組織のアジトに潜入捜査。命を狙われることもある。そして、危険なイベントを乗り越えていくうちに、意外な真相に突き当たる。
キャラクター、あるいは作者の老齢のせいか、今作ではそういった行動的な要素がない。昔の事情に通じていそうな人々に会いに行って、話をするだけだ。

ミステリとしても特に見るところはない。現代と過去において犯人といえる人物が存在するが、謎解きの興趣には乏しい。プロットにもツイストがない。
つまり、これは予定調和を楽しむべきなのだろう。

70歳を過ぎてもまだ明るさを失っていないトミーとタペンスと出会える、そういう価値の作品です。

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