2017-04-18
横溝正史「本陣殺人事件」
アガサ・クリスティの作品を月イチでずっと読んできて、残すところそれも3作。次は何を読むべえか、と考えた。そういえばKindleで「金田一耕助ファイル 全22冊合本版」というのを買っていたのだが、まったく手をつけていなかった。これにするか。
なんとなく、昔読んだ黒いカバーの角川文庫もいくつか引っ張り出してみたのだが、目を通してみて文字サイズが凄く小さいことに驚いた。しかし、昔はこれを普通に読めていたのだなあ。
金田一耕助の初登場作品である「本陣殺人事件」は今見るとあまり分量がない、長めの中編といったところ。
戦前の農村を舞台にしているけれど、内容は非常にモダンで、ジャンルに淫したようなところがある。ミステリマニアである登場人物が事件の様態をややこしくしているし、物語の語り手もこれが探偵小説であることを意識している。
そして、密室トリックは昔読んだときにも思ったけれど、あまりに手が込み過ぎている。とても推理によって解明できるものとは思えない。けれど、純日本的な小道具を駆使したそれからは、構築美みたいなものを感じる。人工性の強さがむしろ美点に思えるのだ。
また、それでいて密室を作った動機は、なんというか、推理の流れから逸脱している。動機などどうでもいいではないか、要はそういうことだろう。手段が目的になってしまっている、そのことこそが素晴らしい。
併録作品がふたつ。
「車井戸はなぜ軋る」
顔かたちが瓜二つの男のうちひとりは戦死し、もうひとりが復員してきた、という設定。
パズルとして構成されているわけではないので、その一転・二転するプロットが読みどころ。因果が思わぬ形で作用してしまう、というのが実に日本的だ。
また、この作品は『獄門島』よりもあとに発表されたものだが、「本陣~」と一緒に収録されたことが、ちょっとしたミスリードになっている。
なお、金田一耕助はおまけ程度に登場するが、その部分はあとから書き足されたものだそう。
「黒猫亭事件」
これは中編としての分量がある。
作者・横溝正史が金田一耕助より紹介された事件、それは顔の無い死体の新機軸だという。
手の込んだトリックだが、時代を考慮すると相当マニアックなミスリードも凝らされている。ファン心理が読めているというか、先入観を植え付けるのが実に巧い。
この作品が一番、現代的かも。
三作品ともアイディアの過剰さが嬉しい。とりあえずここから始まったのだな。
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