2017-04-09

ロード・ダンセイニ「二壜の調味料」


素人探偵リンリーもの9作を含む、全26作品を収録。

やはり表題作「二壜の調味料」の出来が抜きん出ていいです。似たようなテーマを扱った作品は世の中には多くありますが、はっきりと書かず、いかにほのめかすかがポイントでありますね。この作品ではワトソン役であるスメザーズの慇懃な語りがとても効果をあげていると思います。この一作品だけ取ってみるとスメザーズからは、実は全てを知ったうえでそらとぼけているのでは、というような胡散臭さが感じられるのです。また、幕切れの台詞もうまい。
ほかの8作もリンリーのキャラクターに奇矯なところがない分、スメザーズの存在がなんと言うか、過剰に感じられます。「第二戦線」の結末部分などは無くてもよいのだけれど、妙に後味が残る。
ミステリとしては「クリークブルートの変装」の論理がチェスタトン風で好みです。またシリーズ最後の「一度でたくさん」の逮捕劇も実にひとを喰っていて面白い。

その他の収録作にはクライム・ストーリーにとどまらず、スパイものやSFめいたものもあり、あるいは犯罪を扱っていないものもあります。どれも語り口は抑制が利いたもので、それがうまく嵌ったときには異様な雰囲気に結びついているのですが、アイディア勝負のような作品では物足りなく感じることもあるかな。
中では泥棒に入った男が語る「不運の犠牲者」の皮肉な成り行きや、ある議員のスピーチを阻止しようとする「演説」の盲点を突いた手口が気に入ったのだけど、特にいいのが最後に置かれた「アテーナの盾」。見え見えの話なのにやけにもったいぶるなと思っていると、予想だにしない展開が待っている。読んで驚け、という感じですね。

謎解きの要素もありますが、むしろミステリ・プロパーからでは出ないような発想・展開が楽しい短編集です。

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