2017-06-06

アガサ・クリスティー「スリーピング・マーダー」


新婚のニュージーランド女性グエンダは新居を求め、夫より一足先にイングランドの地を踏んだ。そして、たまたま立ち寄った地で一目見た住居を気に入った彼女は、早速その家を買い入れて改修を始める。しかし、イングランドに来たのさえ初めてなのに、彼女はその家の中で何度か奇妙な既視感を覚える。そしてある日、過去に家の中で犯された殺人の情景がグエンダの記憶から浮かびあがってきた。


1976年、クリスティの死後に発表されたジェーン・マープルもの最後の長編。実際に執筆された時期に関しては諸説あるようですが、1940年というのが有力で、後年に改訂がなされているらしい。そうなると、まだマープルものの第二長編『書斎の死体』(1942年発表)も世に出てないうちに書かれていたわけだ。また、作中では『動く指』の事件にも言及がなされています。
本作と同時期に制作されたというエルキュール・ポアロもの最終作『カーテン』では、老いて死期を近くにしたポアロの姿が描かれていました。しかし、この作品内の時代はどうやら1930年代に設定されているようで、マープルもまだまだ元気です。

ミステリとしては発端に提示される謎が非常に魅力的で、ヘレン・マクロイあたりが扱いそうなファンタスティックなものであります。しかし、マープルは非常にあっさりと現実的な説明をつけてしまうわけで、焦点はそこから過去に起こった事件へ移っていきます。

調査は主に事件の当事者である若い夫婦が行い、マープルはそれを補佐していく、という感じ。もちろん、最後の絵解きはマープルが行うのだけれど、フーダニットとしては正直ゆるいですね。ミスリードがいまひとつ効果をあげていないかと。明らかにされる伏線には面白いものがあるのですが。
それでも印象的な場面作りのうまさや、関係者のキャラクターが徐々に浮かび上がっている過程で十分に読ませます。

実際に書かれた時期を考慮すればそこそこ止まりですが、最後の長編としては良い出来かと。

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