2018-01-21

フィリップ・K・ディック「ジャック・イジドアの告白」


1959年に書かれ、'75年になってようやく発表された長編。
リアリズムに立脚したメインストリーム作品で、作者本人の愛着は別にして、娯楽として面白い読み物ではないです。
キャラクターはそろいも揃ってひとりよがりで、およそ共感は持てそうにない。また、ディックのSF作品ではあまり気にならない作品全体としてのまとまりの無さや、浅はかな悟りなどがここでははっきり欠点となっている。当たり前の出来事を魅力的に描くとか、そういった巧さもない。
人間性に筆を費やして、けどそれから? という感じを受けました。センス・オブ・ワンダーがいつの間にか実際の現実に対する認識を揺さぶってしまう、それがわたしにとってのディックだったので。

この本、訳者による脚注が凄く多いです。確かに労作なんですが、別に参照しなくとも読み進めるのに支障はありません。むしろ、いちいち当たっていると文章のリズムに乗れなくなってしまいます。ディックの実生活に興味があるひとや、深読みが好きな向きは目を通せば良いでしょうが。
また、この訳者の方、あとがきも非常に力を込めて書かれています、カルトの予言の書だ、みたいなね。けれど、そんなひとつの要素だけを取り出して語っているのは、作品自体には魅力が無いからではないかな、と思ってしまいました。

なんだか酷いことばかり書いていますね。わたしには合わなかったのです。『ヴァリス』あたり、キャリア末期の作品が好きな人なら楽しめるかも。
あと、ちょっともっともらしいことをいうと、ここで描かれているのはロス・マクドナルド作品と近しい世界だと思います。

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