2018-10-13

フィリップ・K・ディック「いたずらの問題」


舞台は2114年、相互監視による道徳的行動への縛りが強く、そこから外れるものは吊るし上げられたのちにコミュニティから排除される、そんな社会。そして、社会全体の「モレク」を管理する委員会は、風紀を維持するために広告代理店の作った物語を採用している。
それら代理店のうち業界最後発のものの社長、アレン・パーセルが物語の主人公。ある朝、パーセルが出社するとこれまでなかったことに、委員会の書記の訪問を受ける。アレン・パーセル社が提出した「パケット」のひとつに問題があるというのだ。


1956年だからキャリア初期の長編。創元推理文庫版で読んでいるはずなのだが案の定、あまり覚えていない。訳者は同じながら、今回、早川から出るにあたって新たに手を入れてあるそうです。

内容は典型的なディストピアもので、SFとしてはやや地味。監視社会におけるサスペンスとして中盤くらいまでは展開していきます。権力の設定、ガジェット、悪夢的なツイストなどからは、いかにもディックらしいセンスが感じられるけれど、後年のディック作品のような、そこから一気に突き抜けていく部分もない。ただ、落ち着いた筆運びは、感情的な説得力を持たせるものだ。プロットにも余計な要素が少なく、まとまりがあって、わかりやすいお話になっています。
また、ディック本人は60年以上前、米国ではなくある全体社会国家をイメージして執筆したそうなのだが、ここで描かれている社会はデフォルメされてはいても、かなり現代的なものとして受け取れる。

物語後半、パーセルが追い詰められてからの反撃は(直球すぎるきらいはあるものの)、トリックスター的で娯楽性が高い。そして、それだけに結末はしんどいなあ。
しかし、フィクションとして振り切ってしまわずに、とどまったうえで希望の身振りを示すのもディックらしさではあるか。

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