2023-10-01

ロバート・シェクリー「残酷な方程式」


1971年に米国で出た短編集で、収録作品もそのあたりの時期のものが多いようです。SF雑誌に発表された作品もあれば、プレイボーイ・マガジンに載ったものもあり。せいぜい20ページぐらいの分量の作品ばかりで、読みやすい。

内容のほうは、‘50年代のアイディア・ストーリイとは違い、結末の意外性にはそれほど重きは置いておらず、過程をどのように書くか、枝葉の膨らませ方が読みどころといえそう。また、ニューウェーブSFの影響を感じられる作品が多いのですが、中にはテーマや手法のみで書かれたようなのもあって、それらは(かつては新奇さをもって受け入れられたのでしょうが)今では古びてしまっているかな。


特に印象に残ったものをいくつか。

「倍のお返し」(おそらくユダヤ人の)男のところに黒人の姿をした悪魔が訪ねてくる、三つの願いのアップデート版。メインのアイディアはちょっと変わったもの、という程度なのだけれど、人間性の書き込みで可笑しくなっている。

「コードルが玉ネギに、玉ネギがニンジンに」はSFではなく、いわゆる奇妙な味のもの。人間のもつ残酷さを描きながらユーモラスであり、あまりエスカレートさせずにほどほどのところで止めることでリアリティを持たせているのがいいですね。さらっとした幕引きも効果を上げている。ようは小説としてうまいのだな。

「記憶売り」思想狩りを扱ったディストピアものなのだが、記憶売りという商売の設定がいい。そのことで軽みがもたらされているのだと思う。

あと、「架空の相違の識別にかんする覚え書」「シェフとウェイターと客のパ・ド・トロワ」は両者ともSFではなく、まるでラテン・アメリカ文学のよう。前者は理屈っぽさ、作品世界の内と外をあいまいにするところなど実にそれっぽい。「シェフと~」の方は同じ物語を視点人物を変えて語り直す「藪の中」なのだが、現実が複数存在するとも解釈できるし、ドタバタユーモアが効いているのもいい。

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