2011-05-08

コニー・ウィリス「犬は勘定に入れません」


タイムトラベルSFです。時空遡航が可能になった未来(猫が絶滅しているらしい)から、第二次大戦で焼失したかも知れない遺物を探索しつつ、それによって起こった歴史の改変を食い止めるべく過去に干渉していく、というお話。

主人公は物語の最初の章で大戦中のコヴェントリーにいて、次の二章が未来世界におけるオックスフォードに戻り、そのあとはずっと使命を帯びながらヴィクトリア朝で行動するわけなのだけれど、この大部を占める過去パートが英国ユーモア小説として面白い。
その語り振りはゆとりがあり、かつ少しもって回っていて、ひとによっては冗長と感じるかも知れないです。自然描写や文芸の引用、歴史的な出来事についての言及が頻繁に入るし。百数十ページに渡って描かれるボートでの川下りなど、いかにも有閑階級の楽しみといった感じですな。
ことさらに筋を追うのを急がなければオフビートな展開も楽しく、ぬけぬけとした転換の表出など人を食っていて良いです。しかし、上流階級では「召使いを盗み会うのはこの時代のいちばんの娯楽よ」って本当なのかな。

SFとしては、歴史改変について作中での法則がいまひとつはっきりしていない状態のため、結構あいまいな感じで進んでいきますが、あちらを直せば今度はこちらが、的に歴史がずれていく面白さはあります。
でも、ちょっと緩いかな、なんて思っていると、全体の4分の3を過ぎたくらいから本格的にタイムトラベルものっぽくなってくる。最後には霧が晴れたように全体像が見えて、それまではっきりしないなあ、と思っていた各要素がしっかりとあるべき場所に嵌っていきます。これは見事。

アガサ・クリスティやドロシー・L・セイヤーズの小説が謎解きの小道具として出てきて、ミステリファンとしてはにやにやするのだが、そういえば作品自体の雰囲気もなんだかセイヤーズっぽい(なお、作中にコリンズ「月長石」に関するネタバレがあるので注意)。

ロマンスの味付けも柔らかにいい塩梅で、登場する犬や猫もチャーミング。
時間のあるときにゆっくり読むべき本ですね。愉しかった。

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