2011-05-16

麻耶雄嵩「メルカトルかく語りき」


麻耶雄嵩の新作は短編集であります。
帯には大きく「祝! 日本推理作家協会賞 受賞後第一作」と書かれている。二十年前にこの作家が『翼ある闇』でデビューしたとき、保守的な層からボロクソに叩かれていたことを思うと、なかなかに感慨深い。お話が飲み込み易くはなってきているものの、ずっと麻耶雄嵩自身の作風にはブレがないだけに。
ミステリ的技法がエンターテイメント小説全般で見られるような昨今において、ジャンルのコアな部分を持つ作品が評価されるようになった、ということなのだろうか。

その『翼ある闇』で登場したのがメルカトル鮎、という銘探偵であった。大して推理などせずとも事件を解決してしまう、異様に高い能力を持つ、この極悪探偵が登場する作品は本格ミステリの尖端をいくものばかりである。
この短編集も新しい皮袋になんとやらではないが、展開されるロジックは極めて折り目正しいものだが、その末に辿り着く「真相」は普通の意味でのそれとは違う異様なかたちのものが並んでいる。しかし、尖鋭化したコンセプトが自然なほど作品世界に消化されているゆえ、頭でっかちなものにはなっていないのが素晴らしい。各編、構成も趣向に富んでおり、続けて読んでも飽きない。

まぎれもない本格ミステリながら読後感はむしろ、奇妙な味や皮肉さが強く残り、米国産の切れの良いクライムストーリーに近い。語り口も軽妙であり、とっつき易いものだ。
ミステリについて「こうであるべき」という先入感を持っていなければ、案外に誰でも気軽に楽しめる一冊ではないだろうか。

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