2011-11-12
アガサ・クリスティー「火曜クラブ」
ジェーン・マープルものの連作短編集。冒頭に置かれた表題作はミス・マープル初登場作だそうです。
前半六編の舞台はミス・マープル宅。客人として元警視総監のサー・ヘンリーの他、弁護士、医師、牧師、女流画家などが顔を並べる中、マープルの甥で作家のレイモンドの発案で、ひとりずつが自分の遭遇した犯罪について話し、他のメンバーが真相を推理するという会「火曜クラブ」を毎週開くことに。後のアシモフによる『黒後家蜘蛛の会』、あれの素朴な原型という感じですね。
長さが20~30ページ弱のものばかりのためか、どうも限られた紙幅に対して決まったフォーマットが足枷となり、肝心のアイディアの方は骨格を書くだけの余裕しか残っていない、という印象。それぞれの事件は趣向を変えてはあるものの、トリックが剥き出しのかたちで使われているので推理クイズめいてしまっているのね。
中では「舗道の血痕」がトリッキー、という意味ではよく考えられているし、伏線もうまい。細部の詰めが甘いところはありますが、不気味な雰囲気が効果的で読み物としても面白い。
短編集後半には、今度は一夜のうちに語られた物語がまた六編。舞台となる屋敷が移り、参加者もマープルとサー・ヘンリー以外の四人が変わりますが、基本的には同じような構成。ただ、前半の作品に比べ一編あたりが少し長めになっており、ミステリとしてしっかりとしたものに。
「青いゼラニウム」は複数のトリックの組み合わせが生む、意外性の妙が楽しい。盲点を付く手掛かりがスマート。
「二人の老嬢」では一見なんの手掛かりもなさそうな事件が語られます。微妙な伏線を拾いながら想像を駆使し、ありえた物語を紡ぎ出すミス・マープルの独壇場。
「四人の容疑者」でサー・ヘンリーが持ちこんだのは未解決の謎。暗号ものとしての要素もあるのだけれど、それよりも導き出される隠れた物語の意外性が良いな。
「クリスマスの悲劇」はミス・マープル自身が関係した事件。大胆なトリック、巧妙なミスリードが冴える佳作。
「毒草」は全員が同じものを食べた晩餐での、食中毒の末の死が扱われます。誰が・誰を狙い・いかにして、という謎をシンプルに解き明かす。
「バンガロー事件」では宝石泥棒の話が思わぬ展開に。連作であることを上手く使った構成が光ります。
最後に置かれた「溺死」だけはこの作品集のフォーマットから外れ、現在進行形の事件を取り扱っている。無実の人間が逮捕されることを危惧したミス・マープルが、サー・ヘンリーに力添えを頼むという一編。
前半には時代の水準作といった感じのものが並んでいますが、後半は凄くいい。読み物としてもしっかりと肉付けされていて、古びていないですね。
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