2011-11-13

柄刀一「ペガサスと一角獣薬局」


フリーカメラマン南美希風が西欧各国で出会った事件、を四作+1収めた短編集。
幻想的な舞台に強烈な謎、それらに応える常識外れなほどの大トリックと、この作者ならではの個性は各編で充分に発揮されているとは思います。

「龍の淵」で語られるのは伝説の龍による殺人、という島田荘司ばりの幻想的な謎。長編を支える事もできそうな途轍もなく迫力のある犯行現場が提示され、これを作り上げた時点で凄い作品に決まっているだろう、と思うほど。
真相の方もなかなかの大技で、最後の一行でそのものが鮮やかにスパッと明示されるのが見事。なのだけどしかし、軌道をよく良く考えると理屈に合わないような。ついでに言うと、犯人確定のロジックは説得力が弱いか。

「光る棺の中の白骨」では五年前に密閉された(扉が溶接されている)小屋から三年前に失踪した人物と思われる白骨死体が、というこれも強力な不可能犯罪なわけで。ぞくぞくしますな。
難易度が高い分、こちらの解決はちょっとパズル的になっているか。犯行方法そのものは相当ファンタスティックだけれど、読んでいて、ふ~ん、そうなんだという感じ。そこに行き着くまでのさまざまな可能性をひとつひとつ潰していく過程は読み応えがあるのだが、それらと真相開示シーンではロジックの厳密性のバランスが取れていないような気がする。

表題作「ペガサスと一角獣薬局」は一番長く、中編に近い作品。伝説上の生き物、ユニコーンがその角で人間を刺し、空高く飛び立ったペガサスが墜落死させる、という流石に鵜呑みにはできない事件が扱われる。もはやここまでくれば乗せられて読むしかないよな。合理性の中に幻想味を残した解決はしかし、結構ややこしい。

「チェスター街の日」は暴行を受け気を失った男が再度その現場を訪れると、飛び散った血痕や破損したはずの建築にはその痕跡が無く、更には・・・というお話。悪夢のようなイメージがうまく演出されていて、この短編集のなかでは一番無理が感じられない。途中で有名なアイディアを捨てトリックとして使っているあたり、作者の意欲の高さが見えます。

最後に置かれた「読者だけに判るボーンレイク事件」は最初の「龍の淵」前日談なのだけれど、こういうのを書いちゃうのもアイディアが膨らんでしょうがないから、という感じですな。

以上、細かい粗を挙げたりもしましたが、短編でもホームランしか狙っていないような大振りはもう偉い、としか。当世ではバカミスと言われかねないネタが、作品世界から浮いていないというのも素晴らしいではないかな。

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