2011-11-20

Donny Hathaway / Extension Of A Man


1973年リリース、サードアルバム。
溢れんばかりの才能に任せた、という形容がふさわしくクラシック、ゴスペル、ブルース、ポップスにジャズインストなど、幅広い音楽性のショウケース。
どれもオリジナルでかつ高いレベルで完成された仕上がりなのだが、もしここに不足しているものがあるとしたら、それは聴き手の想像力に委ねられるような余白なのでは。

ドニー・ハザウェイははっきりとした自分のスタイルというものを持ち得なかったように思える。裏方的な資質が強かったのだろう。個人的にはその作品には惹きつけられながら、ときに困惑を覚えることも。
中産階級の黒人による中産階級の黒人のための音楽、それのどこがいけない?
だが、音楽家本人はそのなかでアイデンティティを見出せたのだろうか。

ボーカルが非常にディープでありながらも不思議と肉体性が希薄に感じられるのは、本質的にはクルーナーということなのだろう。ソウルシンガーとして聴けばテクニックが鼻についてしまうが、むしろ軽やかなポップソングでこそ光り輝く声。
アルバム最後に置かれたリオン・ウェア作の "I Know It's You" で聴ける、殻を破ったような熱唱は他人の書いた曲だからこそ、という気がする。
ついぞ試されることのなかった可能性について想うことは残酷だろうか。

0 件のコメント:

コメントを投稿